阪急東宝グループの創業者・小林一三ゆかりの地、大阪池田を巡る1Dayトリップ。歴史や文化の薫るまちを楽しむ
2024.06.05特集
阪急東宝グループ(現 阪急阪神東宝グループ)の創業者・小林一三(こばやしいちぞう)。現在の阪急電鉄、宝塚歌劇、阪急百貨店、東宝など、確かな経営手腕と独創的なアイデアにより、数々の事業を成功させた実業家として知られる。
小林一三は、大阪池田にある自邸「雅俗山荘」で暮らしていた。「雅俗山荘」をはじめ、池田にある逸翁美術館、小林一三記念館、池田文庫は、いずれも小林一三に縁のあるスポット。それぞれの場所も近い。小林一三の精神が息づく3施設を巡り、歴史と文化にふれてみよう。
目次
逸翁(いつおう)美術館
まずは逸翁美術館を訪れる。場所は、池田五月山の麓。小林一三(雅号・逸翁)が収集した約5,500点の美術工芸品を所蔵し、さまざまなテーマで年4回の企画展が開催されている。
多彩な展覧会を開催
その時々で多彩な企画展が開催されている逸翁美術館。今回は、2024年4月13日(土)から6月9日(日)まで開催の『地蔵と地獄』展を訪れた。
逸翁美術館所蔵の「地蔵十王像」(絹本着色、13世紀)が国の重要文化財に指定されたことを記念し、開催する運びとなった。
「第1章 地蔵菩薩とは」では、作品を陳列展示するだけでなく、細部拡大図や映像も展示し、作品の魅力を多方面から解説。同じく同館所蔵の国指定重要文化財である「十巻抄 巻五 地獄菩薩」(鎌倉時代1309年)も展示している。
続く「第2章 十王とは」では、閻魔大王が代表する、地獄の十王達が描かれた作品を展示。池田文庫所蔵の大判錦絵も展示されている。
「第3章 六道・地獄とは」では、六道(天・人間・修羅・畜生・餓鬼・地獄)で苦しむ衆生(人間)を救済してくれる「お地蔵さん」と、六道の代表ともいえる恐ろしい「地獄」を描いた作品・資料を紹介する。
室町時代から江戸時代の作品達。その時代を生きた庶民が「恐ろしい地獄も、お地蔵さまがなんとかしてくれる」と信じ、祈っていたのが伝わってくる。
最後の茶室を模した展示スペースにも注目。逸翁美術館ならではの意匠を凝らした展示の数々は見ごたえあり。
以降の企画展は下記の予定。各回のテーマは、同館の学芸員が企画しているそう。その時々の多彩な展示を楽しもう。
2024年7月6日(土)~9月1日(日)いきもの図鑑 ~浮世絵から探し出せ!~ |
2024年9月21日(土)~11月24日(日)【特別展】漆芸礼讚 ー漆工・三砂良哉ー |
2025年1月18日(土)~3月16日(日)黒い美術(ART) |
マグノリアホールでコンサートを鑑賞
逸翁美術館には「マグノリアホール」が併設されている。白い天井に明るい木目調の壁と床。サロンのような空間では、宝塚OGのコンサート、クラシックやジャズのアーティストによるサロンコンサート、邦楽演奏会、講演会、美術館との連動イベントなど様々な催しが行われている。
なかでも定期的に開催されている「マグノリアサロンコンサート」は、新進気鋭のアーティストの演奏を、間近で臨場感たっぷりに聴けると人気。詳細はホームページをチェック。
マグノリアホールは、貸しホールとしても利用可能だそう。「現代ピアノの祖」と称される世界の名器、1905年製スタインウェイグランドピアノも備えている。
お茶室での呈茶も楽しめる
逸翁美術館には、茶室『即心庵』が設けられている。これは小林一三の旧邸・雅俗山荘(がぞくさんそう)にある茶室『即庵』を再現したもの。
企画展開催中の日曜には、呈茶が実施されている。椅子式の茶室で、普段着でもOK。手ぶらで参加でき、お茶とオリジナルの和菓子を楽しめるので、気軽に参加してみよう(一服500円、当日要予約)。
ミュージアムショップにも立ち寄ろう
作品鑑賞を楽しんだら、ミュージアムショップにも立ち寄りたい。館所蔵品のポストカードや図録、逸翁ゆかりのオリジナルグッズなど様々なアイテムを取り揃える。
※商品は在庫状況により変更となる場合があります。
収蔵している作品に登場する、愛らしいイヌやネコがデザインされたアクリルスタンドや、使い勝手の良いポチ袋、ユニークなトランプなど、オリジナリティあふれるラインアップ。
宝塚OG・檀れいさんが、逸翁美術館の所蔵作品や雅俗山荘をナビゲートするDVD『雅俗の精華』も販売中。自分好みの逸品を見つけてみては。
逸翁美術館の基本情報
スポット名 | 逸翁(いつおう)美術館 |
営業時間 | 10:00~17:00(入館は~16:30) |
休館日 | 展覧会会期中の月曜(祝日・振替休日の場合は翌日)※常設展示は行っていません。展覧会開催期間以外は、展示室は閉室しています。 |
入館料 | 企画展一般700円、高大生500円、中学生以下無料(特別展は都度設定) |
問い合わせ | 072-751-3865(阪急文化財団) |
アクセス | 阪急宝塚線池田駅下車 徒歩約10分 |
住所 | 池田市栄本町12-27【MAP】 |
URL | https://www.hankyu-bunka.or.jp/itsuo-museum/ |
小林一三(いちぞう)記念館
続いては、美術館から徒歩数分の小林一三記念館をご紹介。「小林一三記念館」には、その旧邸である洋館「雅俗山荘」と展示室「白梅館」や茶室などがある。
もともと雅俗山荘は、1957年に「逸翁美術館」として開館。小林一三の美術工芸品コレクションを展示する美術館として利用されていたが、2009年に美術館を新設、移転したことに伴い、2010年に「小林一三記念館」としてリニューアルオープンした。
小林一三の旧邸「雅俗山荘」のモダンの美
まずは、その「雅俗山荘」へ。芸術(雅)と生活(俗)を一体に楽しむ思いを込め「雅俗山荘」と名付けたのだという。
玄関から一歩足を踏み入れると、そこは昭和初期のモダンな世界。ガラス製の吊りランプ、大理石の暖炉、磨きこまれた木細工の床など、気品ただようレトロな空間となっている。
こちらは、かつての応接室。吹き抜け天井には、アンティークなシャンデリアが輝く。
ここが、小林一三と家族が暮らし、名だたる政財界・文化芸術界の人々が集った場所なのかと思うと、なんとも不思議な気持ちに。レトロでシックな空間に包まれて、雅俗山荘の「美」と「時」を体感しよう。
2階へ上がると、小林一三の個人史・年譜のほか、「一三ネットワークの100人」と題して、小林一三に縁のある各界著名人との交遊録がずらりと紹介されている。
政財界はもちろん、宝塚歌劇・東宝映画の俳優や、作家・芸術家など名だたる著名人多数。多くの人との交流が、一三の幅広い事績にもつながっていったのだろう。
ガラスケースには、一三愛用の眼鏡(阪急百貨店の品)や、授与された勲章や表彰状も。
2階では、一三の書斎や、夫人の和風な趣ながら、フローリングや洋風バスタブなどを備えた居室なども公開されている。
眼下には、美しい日本庭園。雅俗山荘は、ほどよい和洋折衷の美がある。
邸宅レストラン雅俗山荘でお食事はいかが
1階の一角は、邸宅レストランとして営業されている。かつて小林一三が家族と食事をともにし、名だたる人々をもてなした食堂。そこで旬の食材を使用した、独創的なフレンチキュイジーヌが楽しめる。
ランチ・ディナーとも要予約。歴史を重ねたレトロモダンなダイニングで、上質なひと時を過ごしてみて。
阪急東宝グループの歩みを振り返る展示室「白梅館」はファンの聖地
展示室「白梅館」では、阪急の電鉄事業に始まり、宝塚歌劇、百貨店、東宝映画など、小林一三が関わった多岐にわたる事業の歩みが紹介されている。
阪急電車の車両をイメージした仕切りが設けられた展示空間もユニーク。仕切りの内側が現在、外側が過去を紹介するエリアとなっている。
阪急電鉄の前身、1910年に開業した「箕面有馬電気軌道」の乗車券や、開業を知らせる絵葉書など、100年以上前の貴重な品々に出会えるのも魅力。
小林一三の事績や、阪急沿線エリアの変遷が時系列に沿って紹介されている。なかには当時を思い出す懐かしい品々の展示も。
思い出を語り合ったり、当時といまの違いに注目してみたりと、様々な視点で展示を楽しんで。
茶室と庭園を散策
美しく手入れされた庭園も散策しよう。山荘の外観は欧風建築だが、庭園は純和風。この日は、緑がちになった庭園に、名残の桜が花びらを舞わせていた。
庭園には3つの茶室がある。1つ目は「人我亭(にんがてい)」。昭和39年に岡田孝男氏の指導により作られた茶室で、一席25名位の茶会が可能とのこと。
2つ目は、小林一三考案の椅子式茶室「即庵(そくあん)」。10席の椅子席からは、畳上と同じ視点で喫茶、拝見できるようになっている。和洋が融合した昭和の名席。
3つ目は、小林一三が商工大臣に就任した時の内閣総理大臣・近衛文麿命名の「費庵(ひいん)」。昭和19年、京都の寺院より移築されたと伝わる。
敷地をぐるりと巡ったところで、小林一三記念館の入口である正門「長屋門」にも注目を。長屋門は、能勢町にあった庄屋から移築されたもので、当時のままの状態なのだという。
長屋門の脇に続く「塀」は、雅俗山荘の建物と同じスペイン瓦を載せた、厚さ20cmの鉄筋コンクリート塀。長屋門および塀は、国登録有形文化財(建造物)となっている。
小林一三記念館の基本情報
スポット名 | 小林一三記念館 |
営業時間 | 10:00~17:00(入館は~16:30) |
休館日 | 月曜(祝日・振替休日の場合は翌日)、年末年始 |
入館料 | 一般(高校生以上)300円、中学生以下無料 |
問い合わせ | 072-751-3865(阪急文化財団) |
アクセス | 阪急宝塚線池田駅下車 徒歩約13分 |
住所 | 池田市建石町7-17【MAP】 |
URL | https://www.hankyu-bunka.or.jp/kinenkan/ |
池田文庫
28万冊を越える貴重な図書・雑誌を所蔵
逸翁美術館の隣にある「池田文庫」のルーツは、小林一三が1915年(大正4)に、宝塚新温泉内に開設した図書室。その後「宝塚文芸図書館」に発展し、池田文庫はその蔵書・資料類を引き継ぐ形で、1949年(昭和24)に開館した。
現在、約28万冊を越える図書・雑誌を所蔵し、メインは阪急電鉄・宝塚歌劇・映画・民俗芸能・歌舞伎などに関するもの。閲覧票に氏名と住所(市区町村)を記入して閲覧室へ。
宝塚歌劇ファン垂涎の「歌劇」「グラフ」のバックナンバーをはじめ、宝塚歌劇の脚本の原作となった書籍・マンガも揃っている。過去の新聞掲載記事のスクラップなどもあり、当時の歴史を知る貴重な資料となっている。
ちなみに、「TOKK」のバックナンバーも手に取って閲覧できる。新人だったころのトップさん達が、新年号の表紙を飾っているのも感慨深い。
入館と書籍の閲覧は無料。書籍の館外貸出は行っていない。
館内入口付近には、期間限定のミニ展示コーナーもある。取材時は、1934~1937年の東京宝塚劇場の観覧券などが展示されていた。こちらもチェックを。
池田文庫の基本情報
スポット名 | 池田文庫 |
営業時間 | 10:00~17:00 |
休館日 | 月曜(祝日・振替休日の場合は翌日)、年末年始 ※別途、図書整理のための休館あり。 |
入館料 | 無料 ※館外貸出はしていません。 |
問い合わせ | 072-751-3185 |
アクセス | 阪急宝塚線池田駅下車 徒歩約10分 |
住所 | 池田市栄本町12-1【MAP】 |
URL | https://www.hankyu-bunka.or.jp/ikedabunko/ |
2024年度イベント「13DAY(いちぞうデイ)館長講座」
TOKK情報部が参加させていただきました
今年度、池田文庫では、13DAY(いちぞうデイ)館長講座「もっと知りたい小林一三」を開催している。この講座は、2019年度に開催して大好評を博したもの。前回から内容をさらにアップデートし、10のテーマで小林一三の魅力に迫る。
講師は、阪急文化財団理事・館長の仙海義之さん。2024年4月13日(土)に開催された第1回13DAYに、TOKK情報部も参加させていただいた。
第1回のテーマは「阪急電車・阪急百貨店、宝塚歌劇・東宝」。パワーポイントを活用しながらの、仙海さんによる解説がわかりやすく、内容はエキサイティング。
1講座90分と濃密な内容だが、「もう終わり?」「もっと知りたい」「もっと聞きたい」と思うほど、興味深い話の数々。仙海館長いわく「今回の第1回の内容は、まだ前奏曲のようなもの」とのこと。これからの講義も期待大だ。
イベント詳細
13DAYは2024年度に全10回、一三の名前にちなんで13日に開催される予定。以降の日程・テーマは以下の通り。
<2>2024年6月13日(木)阪急電車の始まりと沿線の広がり |
<3>2024年7月13日(土)暮らしを彩る阪急百貨店 |
<4>2024年9月13日(金)誰もがタノシイ宝塚 |
<5>2024年10月13日(日)東宝の映画・演劇で社会を朗らかに |
<6>2024年11月13日(水)電力は産業の基盤 |
<7>2024年12月13日(金)美術品の収集と鑑賞 |
<8>2025年1月13日(月祝)茶会の催行と美術館の設立 |
<9>2025年2月13日(木)山梨に生まれる |
<10>2025年3月13日(木)池田を愛して |
1講座完結のため、興味のある回のみの受講もOK。池田文庫ホームページより要事前予約。講座終了後に、次回開催分の受付が開始となる。1回につき先着20名限定。
イベントの詳細、予約は<こちらから>
阪急東宝グループの創業者・小林一三とは?池田に住まう人となるまで
阪急東宝グループの創業者・小林一三。その生涯を振り返る。
小林一三は、1873(明治6)年に山梨県の現・韮崎市に生まれる。学生時代は、学問と文芸と観劇三昧の日々。この若き日々の「遊興三昧」が、後の一三の起業・事業発展を支える土台となった。
慶応義塾正科を卒業した20歳の一三は、1893(明治26)年に三井銀行に入行。本店勤務後、同年9月に大阪支店へ転勤。その後、名古屋支店への転勤を経て、再び大阪へ戻る。こうして各地の経済界の先達と交遊を広げていった一三。
1907(明治40)年に三井銀行を退職した一三は、かつての上司・岩下清周の紹介で「阪鶴鉄道」の監査役に就く。これが一三人生の、そして阪急電鉄誕生のターニングポイント。 同年10月に一三は「箕面有馬電気軌道」を創立する。これがのちの阪急電鉄。山梨県に生を受けた文学青年は、大阪で私鉄の創業者となった。
以降、一三は沿線の住宅開発をはじめ、阪急百貨店、宝塚歌劇、プロ野球チーム(のちの阪急ブレーブス)、東宝の設立など数々の事業を成功させてきた。
お客様へ新しい生活様式と楽しみを提案しようとする一三の精神は、現在も阪急阪神東宝グループに継承されている。
大阪池田に自邸「雅俗山荘」を建てたのは、1937(昭和12)年のこと。小林一三は池田に住まう人となる。現在も池田には、小林一三ゆかりの逸翁美術館、小林一三記念館、池田文庫があり、歴史と文化の薫るまちとして愛されている。
最後に
逸翁美術館、小林一三記念館、池田文庫を巡り、13DAY館長講座「もっと知りたい小林一三」の第1回を聴講。その後は再び逸翁美術館を訪れ、閉館ギリギリまで『地蔵と地獄』を再見学。各施設を巡ってみると、多彩な方面から感性や好奇心を刺激され、また新たな気になること、知りたいことが次々と湧いてきた。これはまた来なければ。あなたもぜひ、池田のまちで奥深い歴史と文化に触れる一日を過ごしてみて。
逸翁美術館、小林一三記念館、池田文庫周辺のランチ・カフェ情報
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この記事を書いたのは… TOKK情報部
「TOKK情報部」は、TOKKの読者から構成されている組織です。大阪・兵庫・京都の阪急沿線エリアを中心に、関西で長年暮らしているメンバー揃い。年代、性別もさまざま。グルメ/観光/エンタメ/歴史/アート/イベントなど、様々なジャンルに興味・関心をもち、沿線ライフを日々楽しんでいる「TOKK情報部」が、TOKK読者ならではの目線で取材した記事をお届けします。
この記事を企画・編集したのは… TOKK編集部I
京都在住。休日の過ごし方はもっぱら京都のまち歩き。美術館や社寺、お笑いライブがとくに好き。花より団子。
阪急沿線情報紙「TOKK」は今年で創刊から50年目を迎える情報紙で、関西私鉄・阪急電車沿線のおでかけとくらし情報を毎月1回、各30万部発行するメディアです。取材のこぼれ話やお店の方から聞いたお話や、くらしの中で気になる情報を毎日更新中です。
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