京都・長岡京市の西山浄土宗総本山光明寺。紅葉が見事な古刹
2023.10.28おでかけ
京都・西山連峰のふもとに位置する長岡京市の光明寺(こうみょうじ)は、「西山三山」と呼ばれる古刹(こさつ)の一つ。『平家物語』で有名な熊谷直実(くまがいなおざね)が浄土宗の開祖・法然上人の弟子となり、1198年に草庵を結んだのが始まりと伝わる。約1万7千坪の広大な境内は京都屈指の紅葉の名所として知られ、桜や青もみじ、雪景色といった四季折々の美しさも「京都ツウ」の心をくすぐっている。
目次
光明寺の歴史
重厚な総門の手前には「浄土門根元地(じょうどもんこんげんち)」と刻まれた石碑が建っている。光明寺は、法然上人が初めて念仏の教えを説き、浄土宗を開いたとされる地だ。
時は平安時代末期の戦乱の世。比叡山で修行をしていた24歳の法然上人は「誰もが等しく救われる教え」を求めて旅に出た。この地で長者の家に泊まり、「そういう教えを見つけたら、まず私たちに説いてほしい」と請われる。比叡山に戻って約20年後の1175年、「『南無阿弥陀仏』と念仏を称えれば、阿弥陀仏の力によって極楽に往生できる」という教えにたどりつき、長者との約束を守って、この場所から布教を始めたと言われる。
一方、熊谷直実は1184年、源平争乱の「一ノ谷の合戦」で平敦盛(たいらのあつもり)を討ち取った武将。息子と同い年ぐらいの若者の命を奪った罪の深さを悔いて、法然上人の門に入った。「蓮生(れんせい)法師」と名乗り、法然上人とゆかりの深いこの地に御堂を造立したという。
光明寺の見どころ
総門をくぐると、石畳の「表参道」が奥へと伸びている。背の高い木々となだらかな坂道が、来訪者をどこか懐深く、優しく出迎えてくれるように感じる。
取材に訪れたのは、キンモクセイの香りが漂い始めた秋の日。西山浄土宗教学部長で光明寺の執事も務める柴田康仁さんとは、この総門で落ち合うことになっている。ただ、待ち合わせの時間まで少し余裕があったのと、境内のやわらかな日差しにも誘われて、ちょっぴり散策してみることにした。
二手に分かれている参道のうち、左手の細い石畳を進んだ。高さ10メートルを超えるカエデの間から、木漏れ日がきらめく。すると、向こうから立派な僧侶の装束を身にまとった男性が歩いてきた。ひょっとして、柴田さんですか?
男性は「あら。待ち合わせは総門だったのでは?」と驚いた表情。やっぱり柴田さんだった。すみません、大好きなキンモクセイの香りがしたので境内をうろうろと……と伝えると、微笑みながら総門へと戻る道を促してくれた。「今歩いているここが、もみじ参道ですよ」
もみじ参道
もみじ参道は長さ200メートルほど。2009年にJR東海の「そうだ 京都、行こう。」キャンペーンで紹介された錦秋の景色が大きな反響を呼び、紅葉のシーズンには全国から参拝者が訪れるようになった。
両脇には見上げるように250本以上のカエデが立ち並ぶ。江戸時代の末期、総門の完成に合わせて新たに表参道が造られた際、旧参道となったこの場所に植えられた。柴田さんは「当時の住職は、しっかり未来を見据えていたんでしょうね」と話す。
木々は今や、幅2メートルほどの細い石畳に覆いかぶさるように成長している。色づいたら、きっと圧巻の紅葉のトンネル。「それはもう、錦を織りなすような燃える赤。美しいですね。どこから見ても。ここで暮らしているありがたみを感じます」と柴田さんも誇らしげだ。例年、11月初旬から徐々に色づきはじめ、11月の終わりごろには落ち葉が石畳を埋め尽くし、「敷きもみじ」と呼ばれる色鮮やかな絨毯(じゅうたん)と化す。
もみじ参道の中間付近にある「薬医門(やくいもん)」をくぐり、20メートルほど歩いたところで柴田さんが立ち止まった。「このあたりかな。写真でよく取り上げられる景色は」。振り向くと、幾重にも連なったカエデの葉が目に飛び込んできた。その奥に見える薬医門の瓦や白壁とのコントラストが際立つ。
どこから眺めても美しい紅葉の様子を表現した「見上げ、見下ろし、振り返り」という言葉の意味がよくわかった。紅葉の時期に、また来よう。
カエデはいずれも樹齢150年を超える古木。専門的な手入れはプロの造園業者に依頼している。ただ、参道を掃き清める奉仕の方たちは「きれいに色づいたね」「調子はどうかな」などと声をかけ、木々を大切に見守っているそうだ。
境内をぐるりと参拝。御影堂や阿弥陀堂
総門に戻り、改めて柴田さんに境内を案内してもらう。
表参道をのぼりながら、「なだらかでしょう。女人坂(にょにんざか)と呼ばれているんですよ」と柴田さん。かつて整備した際、女性やお年寄りでも歩きやすいようにと、信者の人たちが近くの川からきれいな小石を選んで運び、一つずつ丁寧に敷き詰めたという。
年配の女性が一歩一歩、踏みしめるようにのぼっていく。ママに連れられて、よちよちと歩く幼児もいる。保育園児たちもにぎやかに坂をおりてきた。ご近所に親しまれているお寺なんだな、と感じる。
女人坂をのぼりきると、空がパッと開けた。向こうに見える「法然上人像」はこの地で教えを説き始めた「43歳のお姿」だそうだ。
その奥で光明寺の伽藍(がらん)の中心、「御影堂(みえどう)」が存在感を放つ。主要な建物は、渡り廊下でつながっている。
創建以降、何度も兵火や火災に見舞われ、大半は江戸時代中期以降に建立されたという御影堂に入った。少しひんやり。厳かな雰囲気の堂内では、黄金の蓮や天蓋(てんがい)などの仏具装飾がきらびやかに輝いている。その中央に法然上人が75歳の時に自らを模して作った像「張り子の御影(みえ)」が祀られている。流罪になった際に弟子から「形見に」と請われ、水面に映した自身の顔を見ながら、大切にしていた母からの手紙を水に浸し、貼り合わせて作ったと伝わる。
御影堂の右奥には、本尊の阿弥陀如来立像が祀られた「阿弥陀堂」が建つ。また、御影堂の裏手の小高い丘の上には、法然上人の遺骨を納めた「御本廟(ごほんびょう)」がある。御本廟には一般の参拝者は近づけないものの、渡り廊下のあたりから少し望むことができる。「御影堂で手を合わせたら、ちょうどその正面の方向に御本廟があります」と柴田さん。
御影堂の近くには、法然上人の遺骸を安置したとされる「石棺(せっかん)」や、寺内で最も古い建物の一つ「鐘楼(しょうろう)」などがある。鐘楼脇のアスファルトのスロープをおりると、法然上人の「御火葬跡」や「鎮守社」、もみじ参道へとつながる。
柴田さんと境内をひとめぐりしながら、光明寺の由緒についてうかがった。浄土宗は2024年に開宗850年を迎える。その歴史の重みを感じるとともに、「法然上人ワールド」の一端に触れられた気がした。
光明寺の四季
秋は「紅葉の特別入山」を開催。庭園の特別公開も
光明寺の広い境内には500~600本のカエデがあり、周囲の山々も含めて秋には鮮やかな赤や黄金色に包まれる。
京都屈指の紅葉の名所とあって、毎年11月半ばから12月初旬にかけて「紅葉の特別入山」期間が設定されている。大人1000円、中高生500円の入山料が必要になるものの、通常非公開の建物や庭園をめぐることができ、「花手水(はなちょうず)」も登場する。
「紅葉の特別入山」の時期は、混雑を避けるため、拝観ルートが限定される。総門から表参道をのぼって阿弥陀堂から入り、渡り廊下を通って御影堂へ。通常非公開の「釈迦堂」と「信楽庭(しんぎょうてい)」を巡って、もみじ参道へと向かう一方通行だ。
今回、釈迦堂と信楽庭を特別に拝観させてもらった。
釈迦堂には、頬に傷のある釈迦如来が祀られている。僧侶に扮した釈迦如来が暴れ者の元を訪れ、火箸を頬に当てられながらも改心させたという伝説から「頬焼けの釈迦如来」と称される。
釈迦堂の前に広がる信楽庭は、白砂に大小18個の石が配された枯山水の庭園。植栽のそばの三つの石は阿弥陀三尊、他の石は「生きとし生けるもの全て」(衆生、しゅじょう)を表わしている。「一つひとつの石は孤独と思えても、阿弥陀様に気がつき信じていれば極楽に行ける」という教えが表現されているそうだ。
特別入山の期間は、美しい紅葉はもちろん、お寺の人たちが大切にしている信仰の場に触れる貴重な機会でもあると感じた。
2023年の特別入山の期間は、11月11日(土)~12月3日(日)となっている。
四季折々の美しさにであえる
カメラ好きの柴田さんら数人の僧侶たちが、境内の移ろう四季を撮影してインスタグラムで発信している。
例えば、年に数回見られるという雪景色。「桜の木にふんわりと雪が積もり、日が当たると、まるで花が咲いたかのように輝いて見えるんです」。その桜は御影堂の周囲に数多く植わっている。「満開の時期は、建物と一緒に写る桜も絵になりますね」
青もみじもおすすめだそう。「3月末から芽吹き始め、4~5月は青々として一番いい季節です」。近年は、そのみずみずしい美しさが評判だ。大勢の参拝者でにぎわう秋よりもゆっくり楽しめると、訪れる人が増えているという。
インスタグラムには、かわいい野鳥たちが「入山」する写真も数多く投稿されている。「いろんな鳥がやってきますよ。メジロ、ヤマガラ、シジュウカラ、ルイビタキ、オオルリ……」。挙げ始めると、止まらない。
四季折々の美しさを保ち、荘厳さを感じる境内。のんびりと心静かな時間を過ごすのもよさそうだ。ちょっと疲れた時には、こう思えるに違いない。 「そうだ 光明寺、行こう」
初心者でも大丈夫。月釜(つきがま)(茶会)に参加してみました
境内にある茶室「廣谷軒(ひろたにけん)」では毎月、表千家や裏千家といったさまざまな流派による「月釜」(茶会)が開かれている。
筆者は昔、茶道の作法を少し習ったことがある程度。ホームページの「お茶会初心者の方でも、ご参加いただけます」という言葉を信じ、思い切って訪れてみることにした。
廣谷軒はもみじ参道の奥、「大書院」と「小書院」の間を抜けたところにある。普段は一般には開放されていないエリア。そんな場所を拝見できるのも、特別感があって嬉しい。
大書院に設けられた受付で初心者だと伝えると、「周りの方々の真似をすれば大丈夫ですよ」。にこやかな対応に少し安心する。待合には、すでに数人が座っていた。この日は中高年と見受けられる人が多く、和服姿は女性が一人。意外と少ない。
茶道具が記された「会記」に目を通したり、壁の掛け軸を眺めたりしながら、緊張気味に30分ほど過ごす。「どうぞ」。順番が来て、茶室に招かれた。2023年春に60年ぶりに改修されたという真新しい6畳の部屋だ。
同席は10人。庭先から鳥のさえずりが聞こえる中、亭主らが入室し、お点前が始まった。茶器や掛け軸をめぐって、心地よい間合いで会話が交わされ、お茶を点てる音がリズミカルに響く。 客を代表する役割の「正客」を務めたのは、光明寺の僧侶だった。お茶をいただく際に少しまごついた修行僧に「隣の人に『お先に』と挨拶して」などと作法を教えている。それを参考にしながら、筆者も無事、「お茶会デビュー」を果たすことができた。
月釜は1月、8月、11月を除く各月の第2日曜の9時から15時(受付は14時まで)に開催されている。会費は年間5,000円、1回なら1,200円となっている。
光明寺の授与品(お守りなど)
お守りや御朱印は、御影堂内にある授与所でいただける。
数珠や光明寺の紋が入った朱印帳などが並ぶガラスケースの中に、青もみじと赤もみじの2種類の模様が入った「御影(みえい)」というお守りを見つけた。掲示されている説明文には「人生半ばまでの方は緑色の『御影』を、人生後半(60歳以上)の方は紅色の『御影』をお受けになって……」などと書かれている。「年齢で分かれているのか」と悩みつつも、デザインにひかれて両方授与してもらうことにした。
「竹しおり」は、良質な竹の産地である長岡京市らしいグッズ。全13種類のうちの3種類は、光明寺オリジナルデザイン。もみじ参道の薬医門を彩る鮮やかな紅葉や青もみじのイラストが描かれている。
そして、「紅葉の特別入山」には、その時期にのみ授与される期間限定の特別御朱印も。2023年秋は繊細なデザインが美しい切り絵御朱印。
いずれも参拝の思い出の品としても良さそうだ。
光明寺への行き方(阪急長岡天神駅から) 観光案内所も便利
光明寺へのアクセスは、阪急長岡天神駅・JR長岡京駅からバスで向かうのがおすすめ。
阪急長岡天神駅の場合は、バス乗り場は駅改札口から少し離れているので要注意。長岡天神駅西口を出て北に1分ほど歩き、「アゼリア通り」を西に曲がって100メートルほどの場所にある。
阪急バス2番乗り場からは「20系統」「22系統」、14時以降は「6系統」「7系統」で。乗車時間は系統によって異なり、約10~15分程度。「旭が丘ホーム前」または「光明寺」で下車、徒歩約3分で光明寺に到着する。
同駅西口を出てすぐの「長岡京市観光案内所」にはレンタサイクルもある。光明寺まで利用する人も多いそうだ。 光明寺に駐車場はなく、近隣は全面駐車禁止。公共交通機関を利用しよう。
JR長岡京駅近くの長岡京西駐車場を利用したパーク&ライドもある。
光明寺の基本情報(拝観時間、拝観料など)
スポット名 | 西山浄土宗総本山光明寺 |
料金 | 境内自由 ※「紅葉の特別入山」期間中は大人1000円、中高生500円。 |
時間 | 御影堂は9:00~16:00、総門は18:00閉門 ※「紅葉の特別入山」期間中は16:30閉門。 |
問い合わせ | 075-955-0002 |
アクセス | 阪急長岡天神駅・JR長岡京駅→阪急バス・旭が丘ホーム前または光明寺下車すぐ |
住所 | 長岡京市粟生西条ノ内26-1【MAP】 |
URL | https://komyo-ji.or.jp |
最後に
紅葉はもちろん、桜も新緑の青もみじの時期も、四季折々の魅力が詰まった光明寺。鳥のさえずりに耳を傾けながら、心洗われるひとときを過ごしてみては。
この記事を書いたのは… TOKK情報部
「TOKK情報部」は、TOKKの読者から構成されている組織です。大阪・兵庫・京都の阪急沿線エリアを中心に、関西で長年暮らしているメンバー揃い。年代、性別もさまざま。グルメ/観光/エンタメ/歴史/アート/イベントなど、様々なジャンルに興味・関心をもち、沿線ライフを日々楽しんでいる「TOKK情報部」が、TOKK読者ならではの目線で取材した記事をお届けします。
この記事を企画・編集したのは… TOKK編集部I
京都在住。休日の過ごし方はもっぱら京都のまち歩き。美術館や社寺、お笑いライブがとくに好き。花より団子。
阪急沿線情報紙「TOKK」は今年で創刊から50年目を迎える情報紙で、関西私鉄・阪急電車沿線のおでかけとくらし情報を毎月1回、各30万部発行するメディアです。取材のこぼれ話やお店の方から聞いたお話や、くらしの中で気になる情報を毎日更新中です。
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