芦屋市の「ヨドコウ迎賓館」を訪ねて。巨匠フランク・ロイド・ライトが設計した名建築
2024.04.01おでかけ
芦屋市の閑静な住宅街にひっそりと佇む「ヨドコウ迎賓館」は、アメリカの建築家フランク・ロイド・ライトが設計した名建築のひとつ。建設されて今年で100年を迎える歴史的な建築物だ。
同館では、毎年ひな祭りの時期に雛人形展が開催されており、それにあわせて訪ねてみることに。『アメリカ出身の近代建築の巨匠が設計した建物でなぜ雛人形展が?』という素朴な疑問とともに、ヨドコウ迎賓館の建物自体の魅力もたっぷりお届けしたい。
撮影協力/ヨドコウ迎賓館(旧山邑家住宅) フランク・ロイド・ライト設計 国指定重要文化財
目次
ヨドコウ迎賓館とは?
フランク・ロイド・ライト。ル・コルビュジエらと並び『近代建築の巨匠』と称される、アメリカが生んだ偉大なる建築家。その建築作品の一部は、『フランク・ロイド・ライトの20世紀建築作品群』として、2019年に世界遺産に登録されている。
彼の建築作品で後世に残されているものはそのほとんどがアメリカ国内に存在するが、浮世絵の蒐集家の顔も持っていたライトと日本との縁は深く、ライトが設計した希少な現存建築物が、なんとここ日本にも存在する。
そのひとつが、芦屋市にある「ヨドコウ迎賓館」。
アクセスは阪急神戸線・芦屋川駅から北へ徒歩約10分。
芦屋川駅から芦屋川沿いを北上し、「旧山邑家住宅」の道路標識を目印に開森橋を渡り、そこからは通称「ライト坂」を登っていく。すると5分ほどでヨドコウ迎賓館に到着する。
ヨドコウ迎賓館の見どころは?
近代建築の巨匠フランク・ロイド・ライト設計の名建築。世界遺産の追加登録候補にも
フランク・ロイド・ライトは日本でも14の建築物の設計をしたが、国内に現存するのは、旧帝国ホテル(玄関部分のみ移築・愛知)、旧林愛作邸(東京)、自由学園明日館(東京)、ヨドコウ迎賓館(旧山邑邸・兵庫)の4つ。そして後者2件が、国指定重要文化財となっている。
フランク・ロイド・ライトの作品が母国アメリカ以外で残されているのは日本のみ。さらに、『フランク・ロイド・ライトの20世紀建築作品群』が世界遺産登録されるにあたり、国内の上記4件のうち、ヨドコウ迎賓館のみが追加登録候補となっている。
ヨドコウ迎賓館がいかに貴重な建築物かが分かったところで、実際に見学していこう。
1階エントランス:均整の取れた建築デザインが美しい
入口から車寄せまでのアプローチを奥まで進むと、ヨドコウ迎賓館の建物が姿を現す。そよ風が吹き抜ける車寄せと玄関部分は、いずれも左右対称のライト特有のデザイン。
車寄せの吹き抜けの開口部を正面から見ると、自然の絵を飾る額縁のようで美しい。これもライト流の来客をもてなす術だろうか。
外装には、ライトが好んで使った大谷石(おおやいし)が用いられ、凹凸がありあたたかみのある質感で独特の存在感を醸し出している。
2階応接室:視覚のトリック・狭き入口より広き室内へ
まずは2階の応接室へ。応接室は、広々とした空間。エントランス同様、ここでも狭い入口から広い空間へと導く手法がとられており、ライトが好んだ空間構成だったことが分かる。
天井は高く、左右にはめ殺しの大きな窓、天井近くの壁にたくさんの小窓があり、それらが光と風を取り入れていて開放感は抜群だ。
柱や暖炉にも大谷石が取り入れられ、細やかな装飾を施されている。
ライトデザインに配慮して製作されたテーブルと椅子には自由に座ることができ、腰を下ろしてゆっくりと室内を鑑賞するのがおすすめ。(長椅子には座ることができません)
3階西側廊下:交差する光と影
3階へ上がると、まっすぐ奥にのびた長い廊下が現れる。
手前から奥まで並ぶ大きなガラス窓から自然光が入り込み、その光と影が織りなす光景は目を見張るほど美しい。
同館の窓には、至るところに飾り銅板が取り入れられている。
飾り銅板は、植物の葉をモチーフにした、正方形を4つ組み合わせたようなデザイン。緑青(ろくしょう)により青みがかっており、窓から光が差し込むと、まるで木漏れ日のようにも見える。
この屋外と屋内の一体化を図るようなライトの手法は、自然に溶け込んだ建築を理想とする彼が唱えた「有機的建築」の一部なのだろう。
ちなみに、同館の岩井館長が、スマホの待受画像にするほどお気に入りなのもこの場所なのだそう。ぜひ現地でこの美しい光景を目にしてほしい。
3階家族寝室:時を超えてふたたび
竣工当時の机と椅子が復元展示されているのがこちらの部屋。
ライトはこの建物に合わせて家具も設計したが、残念ながら現存していない。これらの家具は復元されたものにはなるが、家具を室内空間と切り離せない重要な構成要素だと考えていたライトが、実際にどのような机や椅子を設計していたのかを知ることができる、貴重な空間となっている。
3階売店とビデオ放映室:閑話休題
かつて寝室として使われていたふたつの洋間は、現在は北側がビデオ放映室、南側が売店となっている。
売店ではトートバッグや絵葉書、クリアファイルなどのオリジナルグッズが多数販売されている。ぜひ覗いてみてはいかがだろうか。
4階食堂:隠されたハートを探して
4階にあるのが食堂だ。
正方形に近い空間に、あたたかみのある照明。中央部に向かってだんだんと高くなる四角錘の天井は、周囲にぐるりと三角形の小窓を宿し、どこか厳粛な雰囲気を漂わせている。
館長にお話をお聞きすると、教会のようだと表現する人もいるのだそう。
天井中央にはハートのような形の装飾も!
これもライトの隠された意図があったのではないか、とは館長談。偶然なのか故意なのか、天井を見上げて、隠されたハートを探してみて。
屋上バルコニー:ヨドコウ迎賓館の白眉、それは
さあ、館内見学もここで最後。
食堂南側の扉から外に出れば、開放的なバルコニーが広がっている。バルコニーは縦に長く突き出すような形で、大阪湾が見渡せるほど見晴らしが良い。
風が吹き抜けるバルコニーから、眼下に広がる芦屋市内の街並みときらきら光る海を眺める癒やしのひと時。そしてバルコニーから建物を振り返ってみると…
雲が浮かぶ青空、木々を背にしたヨドコウ迎賓館は、自然に溶け込んだ様子に映る。バルコニーから建物を眺めると、ライトはこの土地に、自然になじむように緻密に計算しつつ設計したのだろうなと感じられる。
心癒やす季節の花々
館内を見学していると、階段の踊り場に、テーブルの隅に、洗面台の端に、目立たぬように控えめに、可憐な季節の花がたくさん生けられていることに気づく(花の名前も書いてあったりする)。
館長にお話を聞いたところ、館内スタッフ3名ほどで生けられているそう。お花のセレクトと購入からアレンジまで、すべてスタッフが行われているそう。館内見学の際には、こちらもチェックしてみて。
ヨドコウ迎賓館の期間限定「雛人形展」
毎年ひなまつりの時期に開催されるのが「雛人形展」。
なぜヨドコウ迎賓館で雛人形展が開かれるのか。そこにはこの建物を巡る、時を超えたストーリーが。
雛人形展で飾られている雛人形は、ヨドコウ迎賓館の建築主・山邑太左衛門(櫻正宗8代目)が、長女の生誕を祝って制作を依頼したもの。
京都の老舗人形司「丸平大木人形店」により、1900年から1901年にかけて制作されたとされる。つまり、2024年現在において、すでに制作より120年以上も経過している雛人形ということになる。そんなに時間が経過しているものとは思えぬほど状態が良く、ぜひ一度肉眼で見ていただきたい。
これらの雛人形は、山邑太左衛門の長女からその娘に受け継がれ、1991年に縁あって淀川製鋼所が譲り受けることとなり、1992年から一般公開されている。
もともとヨドコウ迎賓館の主によって愛でられていた雛人形が、子孫に受け継がれるなかで一度は手を離れるも、こうしてまた古巣であるヨドコウ迎賓館に帰ってきた、いわば「里帰り」したという歴史を感じるストーリーだ。
公開されている雛人形は、【雛人形】【花嫁人形】【花観人形】。
人形はいずれも表情が柔らかで気品あふれる美しさ。人形のみならず衣装、調度品の保存状態も良く、精緻を極めた細工からも贅を凝らして制作されたことがよくわかる。
「雛人形展」は、期間限定の開催となる。最新情報は公式ホームページにて確認を。
ヨドコウ迎賓館の歴史
館内をぐるりと巡ったところで、ヨドコウ迎賓館の歴史をご紹介。
ヨドコウ迎賓館は、1918年に近代建築の巨匠、フランク・ロイド・ライト(米)により設計された。灘の酒造家である山邑家8代目当主・山邑太左衛門の別邸として設計を依頼されたものである。
その後、ライト帰国後の1924年、彼の弟子である遠藤 新(えんどう あらた)、南 信(みなみ まこと)により建設された。
1947年、淀川製鋼所が社長邸として建物を購入(政治家でもあった当時の宇田社長は、ライト設計によるものと知らずに購入したのだとか)。1974年には、国の重要文化財の指定を受けている。
そして1989年より「ヨドコウ迎賓館」として一般公開されている(途中、保存修理工事のため一時閉館時期あり)。そして今年(2024年)、ヨドコウ迎賓館は竣工100周年、重要文化財指定50周年を迎えた。いつでも行けるからと油断せず、今こそヨドコウ迎賓館を訪ねたい。
ヨドコウ迎賓館を訪れてみて
ここまで読んでくださった方は、ヨドコウ迎賓館への興味がきっとふつふつとわいてきたはず。
館内は歴史を感じる古さはあるけれど、ドラマや雑誌、テレビ番組の撮影などが行われるだけあって、どこもかしこも雰囲気は抜群。SNS映えすること間違いなしの空間になっている。建築や歴史に興味がなくとも、とにかく実際に建物内部を探検する気持ちで楽しんでもらいたい。
近代建築の巨匠が残した貴重な作品に、少しでも心動かされる瞬間と出会えるはずだ。
ヨドコウ迎賓館の基本情報(入館料、営業時間、アクセスなど)
スポット名 | ヨドコウ迎賓館 |
入館料 | 一般500円、小中高生200円 |
開館時間 | 10:00~16:00(入館は15:30まで)※イベント期間中は営業時間・休館日が異なる場合あり。 【雛人形展】2024年2月10日(土)~4月7日(日)※来館は日時指定予約・定員制。予約は公式HP・予約サイトより https://www.yodoko-geihinkan.jp/ |
休館日 | 月・木曜 ※イベント期間中は営業時間・休館日が異なる場合あり。 |
問い合わせ | 0797-38-1720 |
アクセス | 阪急芦屋川駅下車 約10分 |
住所 | 芦屋市山手町3-10【MAP】 |
URL | https://www.yodoko-geihinkan.jp/ |
予約は必要?
「雛人形展」期間中は要予約。予約は公式HP・予約サイトより https://www.yodoko-geihinkan.jp/
夜間公開の日はある?
毎年11月土曜日に夜間公開を実施。要予約。詳細は公式HPを要確認。
写真撮影はできる?
館内は写真撮影可能。「雛人形展」期間中は、雛人形が展示されている和室での撮影は禁止。
ヨドコウ迎賓館周辺のおすすめランチ・カフェ情報
ヨドコウ迎賓館を訪れたら、カフェでほっとひと休みしたくなるもの。おしゃれでこだわりが光る“芦屋ならでは”の人気カフェはこちらの記事をチェック!
芦屋といえば、ハイレベルなパン屋さんが多いことでも有名。ヨドコウ迎賓館とあわせて立ち寄りたい高級食パン専門店&ベーカリーおすすめパン屋さんはこちらをチェック!
この記事を書いたのは… TOKK情報部
「TOKK情報部」は、TOKKの読者から構成されている組織です。大阪・兵庫・京都の阪急沿線エリアを中心に、関西で長年暮らしているメンバー揃い。年代、性別もさまざま。グルメ/観光/エンタメ/歴史/アート/イベントなど、様々なジャンルに興味・関心をもち、沿線ライフを日々楽しんでいる「TOKK情報部」が、TOKK読者ならではの目線で取材した記事をお届けします。
この記事を企画・編集したのは… TOKK編集部I
京都在住。休日の過ごし方はもっぱら京都のまち歩き。美術館や社寺、お笑いライブがとくに好き。花より団子。
阪急沿線情報紙「TOKK」は今年で創刊から50年目を迎える情報紙で、関西私鉄・阪急電車沿線のおでかけとくらし情報を毎月1回、各30万部発行するメディアです。取材のこぼれ話やお店の方から聞いたお話や、くらしの中で気になる情報を毎日更新中です。
【Twitter】@hankyu_tokk
【Instagram】@tokk_hankyulocalmedia
- 掲載店舗や施設の定休日、営業時間、メニュー内容、イベント情報などは、記事配信日時点での情報です。新型コロナウイルス感染症対策の影響などにより、店舗の定休日や営業時間などは予告なく変更される場合がありますのでご了承ください。また、お出かけの前に各店舗にご確認いただきますようお願いいたします。
- 価格は記事配信日時点での税込価格です。