物語のある和菓子。知ることで深まる銘菓の魅力【TOKK2024年2月号】

歴史と伝統、そして季節の訪れを気付かせてくれる和菓子。
京都・大阪・兵庫、阪急沿線にある名店や銘菓のストーリーに触れ、店を訪ね、“和菓子の今”を感じてみて。

和菓子の『季節』

五節句や大寒、立春といった二十四節気を用いて自然の豊かさや季節の移ろい、伝統を表現する和菓子。特に上生菓子はその美しさや菓銘の繊細な表現で、時の将軍に献上されるものとして発展し、今や登録無形文化財や世界無形文化遺産にも認定されるほど。

和菓子は大きく分けると3種類。練り物や餅類などの「生菓子」、最中や羊羹などの「半生菓子」、落雁や飴などの「干菓子」がある。それらすべてにおいて、今より少し先の一刹那を映したお菓子が季節ごとに創作され、発信されていく。この冬は、和菓子に込められた物語を受け、より季節を感じ、親しむ機会にしてみたい。

和菓子の 『伝統』

日本書紀に登場する菓祖・田道間守命(たじまもりのみこと)が帝のために持ち帰った「非時香菓(ときじくのかぐのこのみ)」が和菓子の起源とされている。そして、貴族など一部の人しか口にできなかった和菓子が、庶民の間にも広まったのは江戸時代だ。同時に菓銘や工夫を凝らした和菓子が次々と生まれ、その姿は老舗(しにせ)和菓子店で受け継がれている菓子見本帖に残されている。「今見ても鮮やかで美しく、アイデアの豊かさに驚かされる」と「駿surugaya 南森町本店」の岡本さん。日本で独自に発展を遂げた和菓子の華麗な伝統に触れてみて。

和菓子の 『進化』

季節や伝統を大切にしながら、さらなるアプローチに挑戦する和菓子店も増えている。「それはSNSの発展によるものでは」と「亀屋良長」の𠮷村さん。“店や地域のみ”で受け継がれていた和菓子と技術が拡散されることによって、若者の情報収集だけでなく、職人たちも菓子作りを広く深く知ることができるようになったそう。和菓子が持つ伝統や、繊細で不変的な美しいものを大切にしながらも、新たな刺激や発想を盛り込んだ“ネオ和菓子”を生み出す店や職人にも注目したい。

「右近左近〈 2・3月 〉」464円
「亀屋良長」の生菓子。京都御所・紫宸殿(ししんでん)の右近の橘、左近の桜を表現。ひな祭りのひな壇でもおなじみの木花。

続いては、編集部が選んだ京都・大阪・兵庫にある注目の和菓子店を紹介。

【神戸・御影】時代を越えて共感される「雪月花」のわびさび「御菓子司 常盤堂」

伊藤博文が社交場のように利用していた料亭・神戸常盤花壇の和菓子部門の一統として、1868年創業。伊藤自身も幼い頃におつかいで訪れていたという老舗だ。

「キ」の文字を輪状に10個並べ、屋号を表現した紋。

「季節を表現する和菓子」を大切にする常盤堂が、創業時から作り続けている代表銘菓が「御影 雪月花」という3種1組の最中。

「御影 雪月花」1組519円
皮の薄い北海道産小豆を炊いて作るあんこは角がなく、薄めの皮にしっとりと馴染んだ一体感が特徴。マイルドな食感で、やさしい甘さの逸品。

中国の詩人・白楽天の「雪月花の時に最も君を憶(おも)ふ」という詩をモチーフにした最中で、春は花を愛(め)で、秋は月に心を奪われ、冬は雪に情緒を感じる…。そういった巡る季節や、輪廻転生の世界観が盛り込まれた和菓子だ。

雪の結晶、三日月、桜型の皮にあんを詰めていく。

材料は小豆と糖と米粉のみ。それだけで、今も昔も人の心に触れる情景を表現している。

「庵月」185円
求肥で包んだあんを皮で挟んだ、食感の複雑さが楽しい定番の最中。

「和菓子には菓銘、色合い、形、あしらい、すべてに意味があります」と五代目・岩崎典治さん。その物語を知ることで、より心豊かに味わえるのも和菓子の魅力だ。

店名 御菓子司 常盤堂
時間9:00~18:30
定休日日曜休
問い合わせ078-851-4677
アクセス阪急御影駅下車 約12分
住所神戸市東灘区御影中町4-8-22【MAP
URLhttps://tokiwado.jp/

【京都・大宮】地の水と共に創業220年 “伝統の最先端”を愉しむ「亀屋良長」

上/「寒椿〈 2月 〉」464円 氷餅をまぶした白あんの道明寺餅。黄色の練切で、雄しべの花糸(かし)を表現。
右/「ひちぎり〈 2・3月 〉」464円 ひな祭りのお菓子。名前の通り、蓬餅をひきちぎった形を模した練切にきんとんをのせている。
左/「初草〈 3月 〉」464円 雪が残っている地に、生命が芽吹く喜びを表現した白あんの練切。

1803年に創業し、「醒ヶ井水」を一つの材料として様々な和菓子を作り続けている京菓子司「亀屋良長」 。素材の味と香りが引き立つという中軟水で作られる和菓子は、この地で生み出される菓子ならではの魅力だ。

店の脇にある醒ヶ井の湧水。

代表銘菓の「烏羽玉(うばだま)」6個540円。

加えて「和菓子の材料はとてもシンプルです。削ぎ落とされたデザイン、新たな工夫やストーリーも楽しんでほしい」と八代目当主・𠮷村良和さん。

𠮷村夫妻。女将のアイデアから生まれた「スライスようかん」も人気。

「こだわりを捨て受け入れる」という考えのもと、異業種とのコラボレーション商品の開発にも力を入れ、また、若手社員たちが和菓子の型や基本を生かしつつ、新たな感性で二十四節気の菓子を作る「かめや和菓子部」も発足。伝統と進化を感じさせてくれる商品が並ぶ店内で、和菓子の“今”にふれてほしい。

「宝ぽち袋」864円
テキスタイルブランド「SOU・SOU」の伊勢木綿ぽち袋に、おめでたい干菓子が12個入る。
店名亀屋良長
時間9:30~18:00(茶房は11:00~17:00)
定休日無休
問い合わせ075-221-2005
アクセス阪急大宮駅下車 約5分
住所京都市下京区柏屋町17-19【MAP
URLhttps://kameya-yoshinaga.com/

【京都・西院】店で得た確かな技で紡ぐ日常菓子「まるに抱き柏」

「黒豆大福」300円
丹波の黒豆を贅沢(ぜいたく)に使った豆餅。石臼の機械式餅つき機でしっかりとつくことで生まれる、デンプンそのものの自然な餅の甘さも魅力。

2021年にオープンした、大福や薯蕷(じょうよ)饅頭といった定番菓子と上生菓子を取り扱う、普段使いできる和菓子店。店主の西森敬祐さんは製菓専門学校を卒業後、老舗京菓子店「老松」で和菓子の世界にふれ、「亀屋良長」で和菓子作りの伝統的な基本を学んだ後、約8年に渡り、豆餅で有名な「出町ふたば」で餅作りを徹底的に追求。「王道のベーシックなお菓子だからこそベースをきっちり守りたい」と西森さん。

「どらやき」230円
店名にもなっている香川の実家の家紋「丸に抱き柏」の焼印が入る。

加えて、料理などから得る気付きも率先して取り入れる。常に研究を続けるその姿勢が感じられる味に、来店する客は「ここのはどれもおいしいよ」と絶賛。街の人自慢の人気店になっている。

店名まるに抱き柏
時間9:00~18:00
定休日火曜休、不定休あり
問い合わせ075・748・9650
アクセス阪急西院駅下車 約5分
住所京都市右京区西院平町21【MAP
URLhttps://www.instagram.com/maruni_dakigashiwa/

【兵庫・芦屋川】昔のものは昔のままに 元来の姿を新しい切り口で「餅匠しづく 上(しょう)」

上/「静神丸」540円 釈迦が作っていたという古代のサプリを再現。餅の中には黒胡麻のあんと生クリームが入り、香ばしさと甘さが絶妙。
右/「雫」432円 海底から採取された純粋海水で作る氷餅。自然の塩味が白あんの甘さを引き立てる。
左/「フランボワーズ大福」486円 鮮烈な赤は、野菜のビーツをすり下ろし絞ったもの。あんの中にフレッシュなフランボワーズがたっぷり。

岸和田に本店を構え、「お菓子で百薬の長を目指す」をコンセプトに掲げる「餅匠しづく」が“研究と実験の場”“思考のショーケース”として、芦屋で立ち上げ。ここでは“より体に良いもの”をテーマに、オーガニック食材由来の和菓子が並ぶ。代表の石田嘉宏さんは「ハレとケで言えば、ケの日に食べるお菓子を作っていきたいです。日本の主食である白米のように、日常的に食べても飽きないようなお菓子を研究しています」と話す。

「モチ ガナッシュ〈 冬〜春 〉」518円
カカオ58%のオーガニックチョコレートを使用したチョコ大福。

食べること本来の意味を大切に、古代からある素材を使いながらも、今の時代だからこそ必要とされるニュースタンダードな和菓子作りを目指す。

商品台は、土と水とにがりだけで作る「版築(はんちく)」という古来の建築工法のもの。
時間10:30~18:00
定休日火曜休、不定休あり
問い合わせ0797-38-3781
アクセス阪急芦屋川駅下車 約18分
住所芦屋市茶屋之町10-9【MAP
URLhttps://mochi-shizuku.jp/

【大阪・南森町】煉羊羹(ねりようかん)発祥の系譜を持つ進化系パステル羊羹「駿 surugaya 南森町本店」

「小形羊羹 neri」1個378円
写真左から、クラシックな煉羊羹、瀬戸田レモン、抹茶ピスタチオ。80種以上試作した中から厳選の12種がそろう。

煉羊羹は、1589年に京都・伏見の「駿河屋」四代目・善右衛門が創案。「駿 surugaya」は、1837年に分家した「大阪本家駿河屋」の新ブランドだ。看板商品は食べやすさと味の可能性を追求した「小形羊羹」。抹茶味には老舗「一保堂茶舗」の抹茶を、黒糖珈琲味には「ブルックリンロースティングカンパニー」のコーヒーをブレンドするなど、新旧他業種とのコラボレーションで、多彩な味を展開している。

「生粒羊羹 どら焼き」432円
キューブ状の粒あん入り羊羹をどら焼きの生地でサンドした一品。

一見モダンな商品だが、小豆など基本の原料や製法は創業時のまま。羊羹発祥の店としての誇りを感じる新たな銘菓だ。

「駿河屋」の駿の文字を掲げるモダンな空間から、新しい時代の菓子を発信する。
店名 駿 surugaya 南森町本店
時間10:00~18:00(土・日曜・祝日は~17:00)
定休日不定休
問い合わせ06-6354-3333
アクセス阪急大阪梅田・天神橋筋六丁目各駅→地下鉄・南森町駅下車すぐ
住所大阪市北区紅梅町2-17【MAP
URLhttps://www.o-surugaya.com/

【箕面・牧落】鹿児島・徳之島がルーツ 誰もが郷愁を抱く蓬(よもぎ)餅「よもぎや」

左/「蓬餅」280円
濃厚な緑と、ハーブのように爽やかな風味が自慢。徳之島では定番のあんなしに加え、黒糖で煮詰めた小豆で作る甘さ控えめの粒あん入りも用意。

14歳のころに奄美群島・徳之島から大阪へ移り住んだ久林千恵美さんが営む、手作り蓬餅の店。蓬餅は徳之島では「フチムチ」と呼ばれる島のソウルフードで、島以外では見られないヨモギの濃厚さが特徴の、黒糖と餅米だけで作る餅だ。久林さんは「私自身が食べたくて、これは自分で作るしかない」と、ヨモギの含有量が多い郷土の味を再現。ヨモギは4~6月頃が収穫期で、春には自宅前の畑で栽培したヨモギが使用され、より風味豊かな味を堪能できるとか。ヨモギの香りが主役の素朴な味は、島の2世、3世も懐かしむほど。徳之島の画像を検索したくなる、郷愁あふれる味をぜひ。

右/「蓬餅 あん入り」320円
左/「玄米みたらし団子」2本400円 もっちりした食感の玄米団子。玄米のプチプチ食感も楽しい。甘さ控え目のタレも◎。
店名 よもぎや
時間11:00~16:30
定休日木曜休
問い合わせ072-725-0621
アクセス阪急牧落駅下車 約5分
住所箕面市桜1-16-28【MAP
URLhttps://www.yomogiya.shop/

▼この記事もチェック▼
関西と関東のさくら餅の違いとは?お花見と楽しむ和菓子・さくら餅を紐解く!【TOKK2023年3月号】

【阪急沿線で、半世紀。vol.7】和菓子修業のスタートは大阪・南森町から「御菓子司 箕面 薫々堂」

京都・神戸、おいしいあんこのお菓子!あんこライター厳選8品【TOKK 2020年1月15日号掲載】

大阪・京都・兵庫のあんこの手土産。あんこライター厳選8品はコレ!【TOKK2020年1月15日号

  • 掲載店舗や施設の定休日、営業時間、メニュー内容、イベント情報などは、記事配信日時点での情報です。新型コロナウイルス感染症対策の影響などにより、店舗の定休日や営業時間などは予告なく変更される場合がありますのでご了承ください。また、お出かけの前に各店舗にご確認いただきますようお願いいたします。
  • 感染症対策を行いながら、取材・撮影をしております。
  • 価格は記事配信日時点での税込価格です。

この記事をシェアする

関連キーワード






Follow Me!

Instagram Icon Twitter Icon

公式アカウントをチェック!