「天満天神繫昌亭」は60年ぶりに復活を遂げた上方落語の定席
2024.05.08エンタメ
落語と聞いて、みなさんはどんなイメージをもつでしょうか。「古典落語」と言う言葉があるくらいですから、古めかしくて小難しいもの――。そんなふうに思っている人もいるかもしれませんね。しかし、それは大いなる誤解です。
古典と呼ばれる演目でも現代風にアレンジされていますし、そもそも登場する人物は私たちと同じ庶民。「難しいなぁ」と思うところなど全然ありません。
そんな落語ですが、大阪を中心とした上方には、長らく常設の寄席(=定席)がありませんでした。ようやく復活したのが2006年で、実に60年ぶりのことでした。
今回は、その60年ぶりに復活した、上方落語の聖地ともいうべき落語の定席「天満天神繫昌亭」を訪問。見どころと同時に、落語の面白さ、楽しみ方もあわせてご紹介します。
目次
天満天神繫昌亭とは?
落語は江戸時代の1700年前後に、上方(京・大坂)と江戸でほぼ同時に誕生しました。明治に入って数々の名人が登場し、定席も生まれ、第二次世界大戦までは庶民の娯楽として人気を集めましたが、戦中戦後の混乱で多くの寄席は閉鎖に。なかでも上方の定席は長らく復活されずにいたのでした。
ようやく2000年代に入って「定席復活」の構想がスタートし、落語家の団体である上方落語協会と天神橋筋商店街、大阪天満宮が話し合って、大阪天満宮が土地を無償提供することに。建物のほうも2億4000万円もの寄付が市民から集まり、復活の目途が立ったのでした。
こうして2006年9月に「天満天神繫昌亭」が完成。その後、順調にお客さんが集まり、2023年1月には来場者が200万人を突破するなど、いまや大阪を代表する観光スポットになっています。
天満天繫昌亭ではどんな公演・イベントが開催されている?
朝席、昼席、夜席があり、このうち昼・夜席は特別な日を除き毎日開催されています。
昼席は13時30分~16時10分頃の公演で、料金は前売り2500円・当日2800円。昼席には若手からベテランまで8人の落語家が出演し、それぞれ15~25分ほどの落語を演じます。落語の間に、マジックや曲芸など「色物」と呼ばれる演目2組をはさむのも、昼席の特徴です。
夜席も昼席同様ほぼ毎日開催されていますが、こちらは落語家さんの独演会など、多くが企画ものです。主催者それぞれが工夫を凝らした内容だそうです。一方、朝席は土日が中心で、子ども向けや初心者向けの落語会は、主に朝席で催されています。
落語ビギナー向けの落語の楽しみ方って?
ここで、落語とはそもそもどのような芸能か、どのように見たらいいのか、落語ビギナー向けの楽しみ方をご紹介しましょう。教えてくれたのは、天満天神繫昌亭のベテラン・スタッフさんです(写真で、落語をしているのは桂あおばさん)。
落語は想像力が働かせる芸能
スタッフさん曰く「お笑いなので気楽に聞いて欲しい、というのが一番ですね」。最初にも書いたように、落語は難しくもないし、事前に何か勉強する必要もありません。おもしろければ「アハハ」と笑えばいいし、人情噺のように涙を誘う演目もあります。
1人の演者が衣裳も変えずに複数人を演じ分けるので、聞き手の側が想像力を働かせる必要がありますが、それも落語家の巧みな話術で、いつの間にか頭の中に情景が浮かんできます。そこが落語の魅力であり、不思議なところです」と話してくれました。
小道具は着物と扇子と手ぬぐいのみ
落語家は、着物を着て、扇子と手ぬぐいを持って舞台(落語では、舞台のことを「高座」といいます)に上がります。
扇子と手ぬぐいは重要な小道具。たとえば扇子を使って字を書いたり(扇子が筆になる)、ご飯を食べたり(箸になる)、たばこを吸ったり(キセルになる)します。手ぬぐいのほうは本や手紙、煙草入れ、財布などに見立てて使われます。
しぐさと音だけで、うどんやそばを食べているみたいに見えるのですから、本当に見事ですね。素直に、「芸のすごさを楽しめばいい」(スタッフさん)わけです。
ちなみに、写真の扇子と手ぬぐいは本物の落語家さんのもの。取材当日に出演しておられた桂源太さんにお借りしました。源太さん、ありがとうございます。
上方落語と江戸落語の違い
上方落語も江戸落語も基本は同じで、共通する演目は多く、江戸落語の演目を上方の落語家さんが演じるなど交流もさかんです。ただ、「総じて上方の落語は“笑い重視”で、オチもすっきり楽しめる」(スタッフさん)とのこと。
実は小道具に違いがあり、写真の見台、膝隠し、小拍子は上方落語でしか使いません。
上方落語は大道芸から発達しました。見台を小拍子で叩いて音を出し、お客の気を引いていたのだそうです。膝隠しのほうは、上方落語にはしぐさの大きな演目が多く、着物の裾が乱れるのを隠した、といわれています。また、三味線や銅鑼(どら)、笛や太鼓といった鳴り物を効果音やBGM(ハメモノといいます)として使うのも上方落語だけの特徴です。
陽気なシーンではよりにぎやかに、暗い場面ではより暗く……。ハメモノの効果もぜひ味わいたいものです。
天満天神繫昌亭の「昼席」は落語ビギナーにもおすすめ!
落語会は各地で開催されています。とはいえ、「どこに行ったらいいのかわからない」という人は、天満天神繫昌亭の昼席がおすすめです。
すでに書いたように、昼席は8人の落語家さんが登場します。商売や長屋の暮らし、お酒にまつわるもの、泥棒の失敗などなど、まさに「八人八様」で気に入った演目が必ずあるはず。そこから「お目当ての落語家さんが……」という流れができれば最高ですね。
天満天神繫昌亭の見どころ
天満天神繫昌亭の一番の見どころはもちろん落語ですが、落語以外にも楽しめるものがたくさんあります。
天井を埋めつくした提灯
劇内に入ったら、まず上を見ましょう。天井を埋め尽くす提灯にびっくり。約850張あり、5年前に新調されました。
実は、2006年の開業当初は提灯ひとつひとつに、寄付をしていただいた方々のお名前が書かれていました。しかし、痛みが激しくなり、提灯を新調することに。その際、天満天神繁昌亭と上方落語協会の名前だけを入れる形に変わったのです。代わりに、寄付いただいた方々の名前は場内にある銘板に刻まれており、その数、5000にものぼります。天満天神繫昌亭には、それだけ多くの人の「思い」が込められているわけですね。
ちなみに、公演が始まる前の緞帳(どんちょう)も見応えがあります。絵の作者は生田花朝。大阪市出身の日本画家で、大阪の祭りなどの風物を描き続けた人物です。天神祭の渡御船の様子が描かれており、生田花朝の代表作だそうです。
舞台上にある「楽」と書かれた額
緞帳が上がったら、舞台正面の上部を見てみましょう。そこには、「楽」と書かれた額が掲げられています。
書いたのは3代目の桂米朝さんで、「楽」は米朝さんの好きな言葉だとか。米朝さんは2009年に文化勲章を受章しています。落語界では初めての快挙で、多くの落語家さんが「名人・桂米朝」を目標に日々、落語の修行に励んでいます。
上方落語の四天王の似顔絵
入口を入ってほぼ正面上部に掲げられているのがこちら。イラストレーターの成瀬國晴さん作です。描かれているのは、「上方落語の四天王」と呼ばれる人たちで、向かって右から六代目・笑福亭松鶴さん(鶴瓶さんの師匠)、先ほど紹介した三代目・桂米朝さん、五代目・桂文枝さん(当代文枝さんの師匠)、三代目・桂春団治さん。
戦後、上方落語は存亡の危機にありました。それをこの4人が頑張り、多くの弟子を育てたことが、いまの上方落語の隆盛につながっています。上方落語の定席の復活(=天満天神繁昌亭の誕生)は、この4人の悲願でもあったのです。
伝説の落語家が使った人力車
天満天神繫昌亭には赤い人力車があり、ホールや劇場の外に飾られています。
こちらは初代・桂春団治が使っていた人力車を復元したもの。彼は大正から昭和にかけて活躍しました。破天荒な人物でエピソードに事欠かず、数多くの小説や芝居、歌のモデルになっています(「芸のためなら女房も泣かす/それがどうした文句があるか」で有名な『浪速恋しぐれ』も初代・桂春団治がモデル)。この赤い人力車は、特別なイベントで使用されています。
落語家さんたちの個性が光るチラシの数々
入口付近や玄関ホールには、たくさんの種類の落語会のチラシが並んでいます。
どれも個性豊かで、「このチラシいいなぁ」というのも見つかるかもしれません。「ジャケ買い」ならぬ「チラシ買い」で落語会に足を運んでみるのもいいかもしれませんね。
落語家さんたちの守り神「高坐招魂社」もお参りしよう
天満天神繫昌亭から歩いてすぐ、星合池のほとりに「高坐招魂社」が建立されました。上方落語の継承と発展に努めた先人たちの功績を顕彰するものだそうです。話や芸事がうまくなりたいという人にはご利益がありそうです。
天満天神繫昌亭のオリジナルグッズ
玄関ホールには、オリジナルグッズを販売しており、終演後は多くのファンでにぎわうそうです。
スタッフさんによると、売れ筋は上方の落語家の名前がすべて入った手ぬぐいとのこと。落語の演目を元にした絵本を、お子さんやお孫さんのために買って帰る人も多いそうです。
天満天神繫昌亭以外にも、落語を楽しめる場所がある
天満天神繁昌亭以外にも、落語を楽しめる場所があります。
2018年、天満天神繫昌亭に続く上方落語の定席として「神戸新開地・喜楽館」が開場しました。天満天神繫昌亭と同様、こちらでも毎日、落語の公演が行われています(昼席の開演は14時から。前売り2300円・当日2800円)。場所は、阪急電車と直通の「神戸高速・新開地駅」より徒歩2分の場所にあります。
また、上方の落語家たちによるファン感謝祭ともいえるイベント「彦八祭り」が5月に開催されます(2024年は5月18日・19日)。場所は生國魂神社(大阪市天王寺区)。
大阪の落語は、生國魂神社の境内で米沢彦八が演じたのが始まりとされています。この日、落語家さんたちはみな生國魂神社に出向くため、天満天神時繫昌亭はお休み。神社で落語会が催されるほか、数多くの屋台(店主は落語家さん)が境内に出て、大いににぎわいます。
いつもとは違った落語家さんたちの姿も見ることができるのも楽しいですね。
天満天神繫昌亭を訪れた感想
天満天神繫昌亭の取材に伺った日は、ちょうど子ども向けのイベントが開催されていました。「落語って見るのも聞くのも初めて」の子どもたちも、気づけば口を開けて笑っていて、落語の面白さが理解できた様子。これなら「親子でも楽しめる」と思ったものです。
天満天神繫昌亭は、大阪天満宮のお隣にあります。近くには、行列の絶えないコロッケ屋さんや戦前に創業したという老舗の喫茶店もあるので、落語だけでなく町歩きも一緒に楽しむといいかもしれません。
天満天神繫昌亭の基本情報(料金、駐車場など)
スポット名 | 天満天神繫昌亭(てんまてんじんはんじょうてい) |
営業時間 | 公演により時間が異なるため、詳細はホームページにて確認。 チケット窓口は11:00~19:00 |
休館日 | 5月の第3土・日曜 |
公演料金 | 昼席(13時30分~16時10分頃)は前売り2,500円、当日2,800円 ※朝席と夜席はイベントにより料金が異なる。 |
問い合わせ | 06-6352-4874 |
アクセス | 阪急大阪梅田・天神橋筋六丁目各駅→地下鉄・南森町駅下車すぐ |
住所 | 大阪市北区天神橋2-1-34【MAP】 |
URL | https://www.hanjotei.jp/ |
天満天神繫昌亭を訪れる際のランチ・カフェ情報
天満天神繫昌亭を訪れる際は、大阪梅田エリアでランチ・カフェを楽しむのもおすすめ。スムーズに行きたいところを巡れるよう、こちらの記事をチェックしてみて。
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