「グランドサロン十三」は昭和レトロな大人の社交場。初心者歓迎の大阪老舗キャバレー

昔ながらの庶民的な飲み屋が並ぶ大阪・十三。昭和の風情を色濃く伝える歓楽街の一角に創業から半世紀を超えてなお、現役で営業を続けるキャバレーがある。「グランドサロン十三」。全国でも数軒しか残っていない大型キャバレーだ。

グランドサロン十三 内観

きらびやかで妖艶(ようえん)な雰囲気が漂う昭和レトロなこの遊興施設がここ数年、若い女性たちの関心を集め、気軽に楽しめる場所として初めて足を運ぶ客も増えているという。キャバレー初体験の筆者が、変化しつつある「大人の社交場」を訪れてみた。

グランドサロン十三はどんなところ?

高級感あふれるラグジュアリーな空間

阪急十三駅の西改札口を出ると、焼き魚の香ばしい匂いが漂ってきた。チェーンの居酒屋やドラッグストアが並ぶ短いアーケード街を抜けて大通りを渡る。牛丼屋の角を曲がって「十三一番街」と書かれた照明をくぐり、まっすぐ。駅から7~8分で到着したのがこちら。

最上階から1階まで縦にかかる大きな看板には「グランドサロン十三」のネオンサイン。入店すると、ホステスさんたちが笑顔で出迎えてくれた。

歩みを進めると、大空間が目の前に広がる。電飾に縁取られてキラキラと輝くステージ。手前には、そのステージを扇形に囲むようにソファが並び、奥には、数十もの電球がちりばめられた重厚な舞台幕がしつらえられている。

ステージに近づくと天井が高くなり、視界がパッと開けた。高さ6メートルの頭上に、直径2メートルはありそうなシャンデリアがきらめく。これがキャバレーか……。ラグジュアリーな内装に圧倒され、しばらく天井を見上げながらうっとり。

取材にご協力くださったのは、グランドサロン十三を経営する宮田泰三さん

「初めての方はみなさん、感嘆の声を上げられますね」と笑顔で対応してくれたのは、今回取材にご協力くださる経営者の宮田泰三さん。「どうぞ、こちらへ」と促され、ステージに立ってみる。

ステージ上からの眺めも、これまた壮観。今は使われていない2階の客席まで吹き抜けになった空間に、さまざまな色や形のライトが輝く。劇場のように、ステージに向かって全ての客席がレイアウトされ、床にも緩やかに傾斜がついている。ここに立つと、全員の視線を集められる仕掛けだ。宮田さんによると「ステージで歌うカラオケが、お客様からも好評なんですよ」とのこと。

そもそもキャバレーとは

フランスが発祥とされるキャバレー。ヨーロッパでは「舞台や踊り場がある酒場」を指す。歌やダンスなどのパフォーマンスを観ながら飲食を楽しむ場で、大きなステージがあるのが特徴。第二次世界大戦後に日本に入ってきた際、ホステスの接待が加わった娯楽として広まった。

中でも、キャパシティーの大きな店を「グランドキャバレー」と呼ぶ。グランドサロン十三は、延べ床面積約196坪、1階客席だけで170人が座れる広さを誇る。

会話上手なホステスと過ごす楽しい時間

座ったソファは、濃紺のベロア地が張られた扇形。今はどこのキャバレーにもないのだそう。半円形のテーブルや、ハート型のテーブル番号もキュート。オレンジ色のテーブルランプは、スイッチを入れると赤色がともり、スタッフを呼ぶ合図になる。

どれも昭和時代の創業当時からのもので、現在なら作るのにいくらかかるかわからないそうだ。客席は全席禁煙。タバコを吸うお客さん向けに喫煙室が設けられている。

宮田さんの話に感心していると、「よろしくお願いしま~す」と、同店で働いて1年というホステス・りつこさんが、にこやかにテーブルへ。水割りなどのドリンクを作って提供してくれる。

ホステスのりつこさんにグランドサロン十三での楽しみ方を教えていただいた

——グランドサロン十三の雰囲気や客層は?

「ちょっと大人の紳士的な男性が多いです。でも最近は女性のお客様がすごく増えていて。先日は『純喫茶が好き』という20代の女性が、男性と一緒に来てくれました。うれしいですね」。

仲良しの女性数人での女子会もあれば、全身を昭和風の衣装に包んだ“昭和好き”も。後述する飲み放題にはコーヒーも含まれ、“純喫茶”としての空間を満喫していく人もいるらしい。

グランドサロン十三 ホステスさんとの会話

——女性のお客さんとはどんなお話を?

「お仕事の話とか、恋愛の話とか、楽しくできちゃうんですよ」先輩でも上司でもない存在とあって、お客さんも気をつかうことなく、おしゃべりしていくそうだ。

グランドサロン十三 ホステスさんとの会話

話相手となってくれるホステスは2024年1月時点で、約40人。50代を中心に、30代から最年長は80代。えっ、さっきエントランスでお出迎えしてくれた方々は、そんなにお姉さんだったの?

「そこも含めて昭和感、みたいな。若い女性にとってはお母さん世代の私たちでも、逆に新鮮だと楽しんでくださっているようです。半個室のようなブースで扇形のソファに座っていると、親密感も高まってたっぷりとお話できますよ」

——初めての人はどう楽しめばいい?

りつこさんが初めての客に積極的に勧めるのが、カラオケ。「とにかく一度ステージに立ってみてください、って」。歌う様子をスマホで撮影してあげるそうだ。「その姿がとにかく映えるんです。動画はお土産がわり。みなさん、喜んでくださいます」。

グランドサロン十三 イベント

カラオケは1曲目は無料、2曲目からは1曲400円。歌いたい曲をホステスに伝えると、リクエストカードに書いて、司会に持って行ってくれる。順番がきたら、テーブル番号が読み上げられてステージへ。その歌に合わせて、踊り場で自慢のダンスステップを踏む客もいるという。

時折、バンドの生演奏やセクシーなダンスショー、豪華景品が当たるビンゴ大会なども開催されている。こうしたイベントを今後も増やしていくそうだ。

「お酒が飲めなくても楽しめますから、また来てくださいね」。明るい笑顔を残し、りつこさんは、次のテーブルへ。開店した店内では、キャンディーズなどのBGMが流れ、ホステスさんの笑い声や客の話し声、グラスの重なる音が響いていた。

グランドサロン十三への「入り口」とは。初めての来店でもご安心を

グランドサロン十三を多くの人に知ってほしいとの思いから、「料金システムの明瞭化」「貸会場としての利用」「情報発信の強化」にも取り組んでいるという。

わかりやすい料金システム

「キャバレーの数がそもそも減っているんだから、知る人も少ない。『キャバレーって何?』と不安になりますよね。そこで、いやいや安心してください、この値段で飲めますよ、と料金をクリアにしたんです」

初来店のときは、客の人数と同じ人数のフリーのホステスが60分間席についてくれる「パック料金」が1人税込7,000円。ビールと焼酎、ウイスキー、ソフトドリンクが飲み放題で、ホステスの飲み物代も含まれている。

グランドサロン十三 ショー

2度目以降の来店からは、税込9,000円で150分間、指名したホステスがつく「指名セット」が利用できる。もちろん飲み放題。そして、初来店の当日でも60分が近づき、もう少し楽しみたいと思ったら、この「指名セット」への切り替えが可能だ。つまり、「パック料金」に2,000円を追加すれば、計2時間半遊べるシステムとなっている。

さらに気軽な料金プランも。22時以降に利用できる「閉店間際の特割パック」は、閉店までの45分間、2人以上で来店すれば飲み放題で1人3,900円のプラン。ただし、ホステスさんはつかない。「雰囲気をちょっと味わってみたい」という人には、ちょうどいいかも。

バンドの生演奏やセクシーなパフォーマンスといったイベントが開催される場合も、プラス数千円で鑑賞できる。

ライブなどのイベントを開催できる貸会場。結婚式も

きらびやかな空間は、貸会場としても活用されている。昭和の名残を感じさせるモノであふれる店内は、音楽ライブやダンスイベント、ミュージックビデオやドラマの撮影、貸切でのカラオケ大会や同窓会、さらには格闘技イベントまで、さまざまな形で利用されるようになった。

来場者が1日延べ300人を超える催しもあり、貸会場としての2023年の利用は年間50回以上。ほとんどの日曜日がイベントで埋まった。2024年には、結婚式場としての予約も入ったそう。まさに「レトロ婚」だ。

無料で店内を見学するチャンスも

無料で店内を見学できる機会もある。十三を文化活動で盛り上げようという地元の団体が毎年11月に行っているイベント「十三アートフェス」に、2021年から参加。「内装そのものがアート」として、店内を自由に見て回り、撮影できる見学会を開いている。

2023年10月には、大阪の魅力ある建築を一斉に公開するイベント「生きた建築ミュージアムフェスティバル大阪」(イケフェス大阪)にも初めて参加した。2日間で約770人の建築ファンらが訪れ、「こんなに『ザ・昭和』な建物が残されていたとは」と好評だった。

イベントの様子は、店のホームページやSNSで発信中。「十三アートフェス」と「イケフェス大阪」は2024年も開催が予定され、同店も参加を計画している。いきなりキャバレーでお酒をたしなむというのはハードルが高くても、こういったイベントなら気軽に訪れることができそうだ。

グランドサロン十三の歴史をふりかえる

グランドサロン十三は、宮田さんの父が1969年に創業した。当時は「いざなぎ景気」(1965年~1970年)と呼ばれ、お金があふれていると言われた時代。特注のシャンデリアや職人技が施された装飾など、贅(ぜい)を尽くした店を作ることが可能だった。

十三近辺には、1970年開催の大阪万博の建設に関わる労働者が大勢いたほか、製薬会社の工場などもあった。猛烈に働いた後の娯楽の場を求めて、労働者たちが店へと詰めかけたという。

おかげで店は大盛況。「オープン直後のその頃が全盛期だと聞いています」と宮田さん。「2階も含めて連日満席で、外には入店待ちのお客様が大勢いた。お客様の回転をよくするために店員への合図として『軍艦マーチ』を流し、『じゃあ、もうこのへんで』とお客様を送り出し、外のお客様を入れる、という毎日だったそうです」

グランドサロン十三 イベント

カラーテレビの家庭普及率が2割に満たなかった時期。そんな豪華な店内で、パフォーマンスを観るのは、非日常の娯楽だったのだろう。各地の繁華街にグランドキャバレーが登場し、昭和40年代(1965~1975)には、東京だけでも700軒以上あったそうだ。

しかし、娯楽の多様化が進み、小さなスナックやキャバクラの台頭など、さまざまな要因が重なって、グランドキャバレーは平成が終わりを告げる2019年ごろには、全国的にも数軒を残すのみとなった。同店も、創業者が取材や宣伝を好まなかったため、知る人ぞ知る隠れ家的な存在になっていたという。

そんな店を、コロナ禍直前の2020年1月、宮田さんは引き継いだ。大学を卒業後、鉄道会社に入社。「大好きな会社だったので、定年まで勤め上げるつもりだった」ため、創業者から声をかけられた際にはかなり迷った。が、決意。「この壮大な建物を改めて見つめたとき、キャバレーという文化も豪華な内装も、残さなくてはいけない」との思いからだった。この規模の大型キャバレーが今もなお現役で営業しているのは、全国的にも珍しいそうだ。

進化するグランドサロン十三

歓楽街のイメージが強い十三は今、変わりつつある。阪急大阪梅田駅から特急で3分という立地の良さから、駅近にタワーマンションの建設が計画され、保育園や図書館なども入る予定だ。同店の近隣にもマンションが急増している。

2025年の大阪・関西万博に向け、淀川の河川敷に船着き場を整備するプロジェクトが進んでいるほか、阪急電鉄は2031年までに十三駅からJR大阪駅、新大阪駅をつなぐ2本の新路線の建設をめざしている。

街としての勢いがある中で、宮田さんは店に対する「地域の後押し」を感じているという。

アートフェスでは、見学会が「イベントの目玉」として位置づけられ、多くの近隣住民が訪れた。地域の社会福祉協議会は「趣味のない年配の男性に勧めたい」と、ウォークラリーイベントのコースに同店を組み込んだ。同店も「地域のお店が潤うようにしたい」と、あえて店内では込みいった料理を提供せず、近隣飲食店からのテイクアウトなど食品の持ち込みも認めている(要手数料)。

「全国に数軒しかないキャバレーが十三にある。それが十三という街の特徴になれば」と語る宮田さん。「昭和の遺産」ともいえるキャバレーは、令和の観光スポットとして進化していた。固定概念にとらわれず、気軽にふらりと立ち寄ってみたい。

グランドサロン十三(キャバレー)の基本情報(アクセスなど)

スポット名グランドサロン十三
時間18:30~22:45
定休日日・月曜・祝日(土曜祝日は営業)、12月31日~1月3日
問い合わせ06-6308-0111(営業時間内のみ対応)、080-9476-7377
※貸会場の利用は、ホームページの問い合わせフォームから要問い合わせ。
アクセス阪急十三駅下車 約7分
住所大阪市淀川区十三本町1-16-20【MAP
URLhttps://juso13.net/

おわりに

取材を通して、わかりやすい料金設定や会話上手なホステスさんたちの様子から、「初めての人にも安心して楽しんでほしい」という思いが伝わってきた。初来店では、60分間税込7,000円。十三で飲んだ後、2軒目としてふらりと立ち寄るのも良さそう。レトロな空間に浸りながら、ホステスさんとの会話に酔いしれよう。あわせて、貸会場イベントや見学会などで、キャバレーとは違った魅力も楽しんではいかが。

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京都在住。休日の過ごし方はもっぱら京都のまち歩き。美術館や社寺、お笑いライブがとくに好き。花より団子。

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