「湊川神社」は神戸を代表する神社のひとつ。緑豊かな“都会のオアシス”
2024.04.03おでかけ
神戸を代表する神社のひとつである湊川神社(みなとがわじんじゃ)。神戸市民から「楠公(なんこう)さん」の愛称で親しまれています。「楠公」とは武将・楠木正成(くすのき まさしげ)公のことで、正成公をお祀りする湊川神社のことも、人々は親しみをこめて「楠公さん」と呼ぶのです。
高速神戸駅やJR神戸駅から歩いて数分という好立地にありながら、緑が豊富で広々としており、まさに「都会のオアシス」。ここだけは周りとは違った空気が流れています。
今回は、そんな湊川神社を訪問。広報室長の鈴木智子さんに、神社の魅力や見どころ、おすすめスポットなどをお聞きしました。
目次
湊川神社は主祭神に楠木正成公を祀る神社。その歴史とは?
湊川神社の主祭神である楠木正成公は、鎌倉時代の末に活躍した武将。後醍醐天皇による鎌倉幕府討伐に貢献しました。知略を尽くし幕府軍を苦しめた「千早城・赤坂城の戦い」はとくに有名です。
しかし、再び武家政権(室町幕府)の成立を目指した足利高氏が後醍醐天皇に背き、日本の国体、皇室を守ろうと戦った楠木正成公は、湊川の地で討ち死にしたのでした(1336年「湊川の戦い」)。その後、私利私欲に囚われず、公(おおやけ)のために殉じた武将として、また「智」「仁」「勇」に優れた名将として楠木正成公の声望は高まり、後世多くの人々から敬われてきました。
江戸時代に入ると、「黄門さま」として知られる徳川光圀(みつくに)公が、地元の人たちがひっそりと守ってきた楠木正成公の墓に、墓碑を建立。
さらに、明治維新前後の困難期、楠公への崇敬は武士、庶民問わず高まり、楠公を祀る神社を建てる希望が相次ぎ、明治元年、ここ神戸に神社を創建することの御沙汰が明治天皇より下されました。明治5(1872)年に湊川神社が創建されて現在に至ります。
湊川神社は神戸市民が人生の節目節目にもお参りする場所。神社のご利益も紹介
それにしても、なぜ神戸の人は「楠公さん」と親しみを込めて呼ぶのでしょうか。高速神戸駅やJR神戸駅のすぐ近くという立地の良さ以外にも理由がありそうです。
「創建前から、楠木正成公は浄留離や講談などで人々のヒーローでした。最も人気のある歴史上の人物だったのです。そして、実は神社をつくるにあたり、地元の人たちの多くが砂を運ぶなどの奉仕をしたんです。昔の神戸の人たちには『みんなでつくった神社』という思いがあったのでしょう。その後、境内は『不夜城』ともいわれる程の賑わいとなりました。
神戸の繁華街といえば今は三宮ですが、戦前までは当社から新開地にかけてが“神戸一の歓楽街”。
つまり、ここはみんなが気軽に寄れる場所、日常の暮らしに溶け込んだ神社だったんですね」(鈴木さん)
そのような歴史もあり、安産祈願から始まってお宮参り、七五三、厄除け、結婚式まで多くの神戸市民が人生の節目節目にお参りするのだといいます。実際、取材の日は平日でしたが、何組もの親子がお宮参りをしていました。
ご利益は開運招福、厄除、家内安全などですが、楠木正成公の知将としての一面に加え、千早赤坂の楠公の城が、幕府軍になかなか攻め落とされなかったことにちなみ、「楠公」をかけて「難攻不落」として、最近は受験生からの人気が高まっているそうです。
湊川神社には見どころ多数。境内にはフォトジェニックな場所も
そんな湊川神社の境内をまわり、見どころもご紹介します。
まずは「本殿」へ。多数の画家が奉納した天井画も必見!
第二次世界大戦の空襲では、湊川神社も大きな被害を受けました。とくに境内の北側、本殿周りの被害がひどく、昭和10(1935)年、大楠公600年大祭にあわせて新しく建てられていた本殿も社務所と共に延焼しました。
現在の本殿は、昭和27(1952)年に復興された比較的新しい建物。権現造(ごんげんづくり)に似た八棟造(やつむねづくり)で、代表的な戦後の新しい神社建築として知られています。
中央の扉奥に主祭神の楠木正成公が、向かって右に楠公夫人が、左には楠木正成公の長男・楠木正行(まさつら=小楠公)以下、楠木一族がお祀りされています。
本殿をお参りしたら必ず上を見ましょう。兵庫県を代表する日本画家・福田眉仙(びせん)による大青龍を中心に、164面もの絵が天井を埋め尽くしています。まさに豪華絢爛。作品の数々は、棟方志功をはじめとする全国の著名な画家から奉納されたものだそうです。
御祈祷の方以外は、写真のように建物の外からの鑑賞になります。
「楠本稲荷神社」は人気の撮影スポット
正面にある表神門をくぐり、本殿を目指して真っすぐ参道を歩くと、右手にひときわ目を引く朱塗りの建物が見えてきます。
こちらは「楠本稲荷神社」。徳川光圀公が墓碑を建立する以前から、この地に鎮座していたと伝わります。お稲荷さんなので、ご利益は商売繁盛・五穀豊穣。まだ神戸・福原に花街があった頃には、芸者衆から篤く信仰されたそうです。
写真からもわかるように、小さな朱塗りの鳥居がいくつも連なっています。奥に小さなお社があり、そのお社の天井には、無数の提灯が吊り下げられています。実に独特な空間で、とてもフォトジェニック!
鈴木さんによると「お宮参り、七五三、結婚式などでは、多くの人がお稲荷さんを背景に記念撮影をされます」とのことですが、そうしたくなるのもわかりますね。お稲荷さんの眷属(けんぞく)であるキツネの小さな像もとてもかわいくて、インスタ映えしそうです。
学問の神様が祀られている「菊水天満神社」
「菊水天満神社」は、湊川神社ができた後、建てられました。本殿に向かって右の奥にあり、「菊水」とは楠木家の家紋で神社の社紋でもあります。
お祀りしているのは菅原道真公で、いわずとしれた学問の神様です。小さなお社ですが、合格祈願に訪れる学生さんが絶えないそう。
ここには「撫で牛」がおり、自分の調子の悪いところを触ると回復するといわれています(たとえば、足が不調なら牛の脚を触ります)。
頭をさすると知恵を授かるとも。そのため、頭のあたりが他の場所よりツルツルしていました。
幕末維新の志士たちも訪れた楠木正成公の墓碑「御墓所」
鈴木さんが「当社に来たら必ず訪れて欲しい」と話すのが、楠木正成公の墓碑がある「御墓所」です。
「御墓所」は境内の南東角にあり、国の史跡に指定されています。先述したように、湊川の戦い以降地元の人がひっそりと守ってきた所に、徳川光圀が墓碑を建てたのでした。そのため、墓碑の横には光圀の像も立っています。
墓碑に書かれた「嗚呼忠臣楠子之墓」の8文字は、光圀自ら筆をとったそうです。その後も「建国以来の日本の精神、皇室を国の柱として守ろうとし、至誠、忠節を尽くした日本人の鑑である」と、光圀は楠木正成公の至誠の精神の顕彰に努めました。
ちなみに、墓碑建立の際に現場で指揮をとったのは佐々宗淳(さっさむねきよ)。テレビドラマ『水戸黄門』の佐々木助三郎(助さん)のモデルになった人物です。
実はこの「御墓所」には、吉田松陰や坂本龍馬など歴史上の著名な人物も多数訪れています。なかでも吉田松陰は、この墓碑の拓本を座右に掲げて、後進の指導に当たったそう。同志社大学創設者の新島 襄(にいじま じょう)もこの拓本を居間に掲げていました。楠公の精神は立場や方法論の違いを問わず、国を思う人々の礎、「維新の原動力」になったわけですね。
尼崎藩の歴代藩主が建てた灯籠も並んでいます(湊川は尼崎藩の飛び地です)。静かな湊川神社のなかにあって、また違った空気が流れています。
楠木正成公が亡くなった場所「殉節地」
九州から京を目指して東上してきた足利軍と、それを迎えうった朝廷軍(新田義貞・楠木正成)との間に行われたのが「湊川の戦い」。圧倒的な勢力差で攻め込む足利軍に対し、楠木軍が孤軍奮闘。楠木正成公は「もはやこれまで」と実弟・正季(まさすえ)卿はじめ一族郎党と自刃しました。その際、「七生滅賊」(7回生き返って朝敵を滅ぼす)と誓い合ったといわれています。
「殉節地」は楠木正成公たちが自刃をしたと伝わる場所です。注連縄が張られており、小高くなっています。普段は写真のように入口の扉が閉まっているのですが、社務所にお願いすれば、特別に開門して見学させてもらえるとのこと。中に入れば、より近くで聖地を参拝することができます。
扉の前に並ぶ、大隈重信や江藤新平、大木喬任(たかとう)、初代兵庫県知事として神社の創建に尽力した伊藤博文らが寄進した灯籠もあわせて見てみてください。いかに楠公が多くの人々から崇敬されたかが解ります。
ほかにも様々な見どころあり
境内には他にも、評論家・歴史家の徳富蘇峰(とくとみそほう)が命名した「尚志館」(茶道や華道のための場所で一般にも貸し出されています)や、能楽の会や落語会などが開かれている「神能殿」などがあります。
四季折々の花々も参拝者を楽しませてくれる
湊川神社では、季節の花々が参拝者の目を楽しませてくれます。見られるのは主に桜、藤、ツツジ、紅葉で、春のクスノキの新緑も美しいとのこと。
鈴木さんによると「とくにおすすめなのは、桜の花と藤の花のコラボレーション。境内にはソメイヨシノをはじめ複数の品種の桜が植えられており、何年かに一度、遅咲きの桜と早咲きの藤が同時に咲くことがあります。とても見応えがあるんですよ」とのこと!
お花の情報は、公式Instagram(@minatogawa_jinja_kobe)でも随時紹介されています。こまめにチェックを!
湊川神社はお守りも個性豊か
武将を主祭神に祀るなど個性的な湊川神社ですが、授与品もユニーク。一番人気があるお守りは「難関突破守」。
数万の幕府軍相手に、知略で勝利をおさめた楠木正成公にあやかっています。写真のように台付きで、机の上など目につく場所に置くこともできます。
「しあわせ守」は女性に人気があるカラフルなお守り。ブーケをかたどっており、巫女さんがデザインしました。
最後に紹介する「開運招福守」は最近、人気が高まっているそうです。メタル製のカード型のお守りで、画家・横山大観が描いた『大楠公』と画家・上村松園が描いた『楠公夫人』がデザインされています。
お守りなどは社務所にて授与されています。お参りの際はあわせて立ち寄り、授与品もチェックしてみてください。
湊川神社の行事・祭事
湊川神社では、一年を通じて様々な神事や行事が行われています。その中から特に有名な行事をご紹介します。
【1月】初詣
アクセス便利な場所にある湊川神社は、初詣にもおすすめの神社です。参拝者は、三が日で約90万人。本殿にお参りするための列が、神社を半周することもあるのだとか。
コロナの影響で露店の数は減らしましたが、それでも約100店の露店が並び、大いに賑わいます。湊川神社で新年の賑わいに包まれながら、気持ち新たに一年をスタートするのもいいでしょう。
【8月】夏祭り
8月の後半に斎行される湊川神社の「夏祭り」は、神戸の夏の風物詩として親しまれています。
湊川神社の夏祭りは、楠木正成公の御霊をお慰めする「献燈祭」と、 菊水天満神社の「菊水天神祭」を合わせたお祭りとのこと。「露店が立ち並び、境内の至るところを提灯が彩ります。地元の子どもたちだけではなく、老若男女が集い、とても賑やかですよ。境内のビアガーデンは、地元の方々や近隣のビジネスマンから人気です」と鈴木さん。
御前踊り(=盆踊り)や名物の「大楠公のねぶた」は、子どもはもちろん、大人も存分に楽しめます。
【毎月1日】手作り市
湊川神社では、毎月1日に「月次祭(つきなみさい)」が催されており、あわせて「手作り市」も開かれています(1月・8月を除く)。実は手作り市は、鈴木さんもイチオシの催し。
服や雑貨など市民が自らつくったものを持ち寄って販売するそうで、毎月40~60店が出店します。みなさんもぜひ、掘り出し物を探してみてください。
湊川神社の基本情報(参拝時間、駐車場など)
湊川神社のアクセスは、神戸高速線・高速神戸駅下車すぐ。阪急神戸三宮駅から、電車で約5分で到着します。
午前中は湊川神社にお参りして、午後からは神戸三宮でランチや観光を楽しむこともできますよ。
スポット名 | 湊川神社(みなとがわじんじゃ) |
拝観料金 | 境内自由 |
参拝時間 | 季節により異なります。下記参照 https://www.minatogawajinja.or.jp/news/8206/ |
問い合わせ | 078-371-0001 |
アクセス | 神戸高速線・高速神戸駅下車すぐ |
所在地 | 神戸市中央区多聞通3-1-1【MAP】 |
URL | https://www.minatogawajinja.or.jp/ |
まとめ
神戸を代表する神社のひとつである湊川神社、通称「楠公さん」。神戸の市街地にありながら、境内は緑豊か。歴史に思いを馳せながら、心穏やかに過ごせる場所でした。また、桜などの四季の花々やユニークなお守りも要チェック。地元市民から長きにわたり親しまれてきた湊川神社にお参りし、癒やしのひと時をお過ごしください。
湊川神社周辺のランチ・カフェ情報
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