新茶の季節を楽しむ。阪急沿線で緑茶の魅力を再発見【TOKK2023年5月号】

<TOKK2023年5月号 特集前編>

5月2日は立春から数えて八十八日目にあたる八十八夜。農作業を始める目安とされ、この時期に摘んだお茶を飲むと、一年を無病息災で過ごせるともいわれています。一番茶も出始める今、お茶のことを知ってもっとおいしく楽しもう!

新茶の季節を楽しむ

今回教えてくれたのは… 柳桜園(りゅうおうえん)茶舗 店主 伊藤寛和さん

学生の頃から家業を手伝い、京都府茶業研究所での研修などを経て代表に。子どもの頃から食卓には京番茶が並び、おやつなどで抹茶にも日常的に親しむ。

撮影協力/谷口陶磁器製作所

京都の名刹(めいさつ)や茶道の三千家もひいきにする宇治茶の名店「柳桜園茶舗」。開業医を志した初代が、「茶も薬、医に通じる」という師の言葉を受け、1875年に創業した。現在は、契約自家茶園の茶葉を店内の石臼で挽き売りする抹茶を中心に、高品質な緑茶全般を販売する。

毎年5月前後にだけ店頭に並ぶ新茶は、その年に摘む初めての茶葉を用いた煎茶で、一番茶とも呼ばれ待ちわびる人も多い。魅力は何といっても若葉ならではの香味。「特有の香りは揮発性で、茶葉が熟成する間になくなってしまうんです。今だけのフレッシュな味わいです」と店主の伊藤さん。同店では火入れ乾燥を控えめにし、若々しさを際立たせるそう。水色(すいしょく)の美しさも特長だ。

お茶と聞くと多彩な種類が浮かぶが、味は違えど原料はどれも同じチャノキの葉。伊藤さんによると発酵の度合いで、緑茶・ウーロン茶・紅茶に大別されるのだそう。日本で造られるお茶のほとんどは不発酵茶である「緑茶」で、さらに碾茶(てんちゃ)(抹茶の原料)・玉露・煎茶・番茶類の4つに大きく分類される。

ちなみに緑色なのになぜ“お茶”なのかというと「古来、庶民が口にしていたのは、茶色い番茶だったから」。奈良・平安時代に僧が唐から番茶を持ち込み、鎌倉時代からは、抹茶を飲む文化が寺院や武士階級へ広まっていった。鎌倉時代の歴史書『吾妻鏡(あづまかがみ)』には、お茶は二日酔いの薬として登場している。

その後、千 利休によって禅の思想を取り入れた茶の湯文化が完成。煎茶が一般庶民まで広まるのは江戸時代だ。煎茶は約300年前、玉露は約200年前に成立した比較的新しいお茶。“日常茶飯事”という言葉のように、日本の文化・生活に即した身近な存在へと進化・発展してきた。

ところで、地方色が強いことで知られる番茶。京都で一般的な「京番茶」は、「焦げた落ち葉のような見た目で、県外の方は驚かれます」と伊藤さん。京都の人にはおなじみだが、初めて飲むとそのスモーキーな風味にびっくり! 茶葉を飲み比べて好みの味わいを探すのも楽しそう。

最近は急須のない家庭もあるというが、「毎日少しでもお茶を淹れる時間を作ってみては」と伊藤さん。「好みのお茶を季節のお菓子と楽しめば、忙しい日々にも心にゆとりが生まれます。味わいはもちろん、お茶を淹(い)れる時間を楽しんだり、四季の移ろいを感じたり、お茶は人生をより豊かに楽しくしてくれます」。作法が難しそう、敷居が高そうなんて先入観は捨て、まずは気負わず日常にお茶を取り入れてみたい。

柳桜園茶舗流 おいしい煎茶の淹れ方

日本で最も飲まれている「煎茶」の淹れ方をレクチャー。
伊藤さんによると「味の決め手は、【茶葉の量】【お湯の温度・量】【浸出時間】のバランス。湯温が高いと苦みが出やすく、低いとうま味が出やすいので、温度でコントロールを」。1煎だけでなく、2・3煎目まで淹れ方のポイントをおさえれば、自宅のお茶がさらにおいしく!

<用意するもの>
茶葉:10g(大さじ2杯) 湯:70~90℃、1煎につき約200ml

1)急須に茶葉を入れる

【POINT】「1客分だと薄く出がち。たっぷりの茶葉で2~3客分淹れるのがおすすめ」。

2)沸騰させた湯を実際に飲む茶碗に注ぎ、器を温める

【POINT】「飲みたい量の湯を入れると良いです。湯は器に移すたびに約10℃冷めていきます」。

3)湯冷ましした茶碗の湯を急須に注ぎ、30~45秒蒸らす

4)茶碗に茶を交互に注ぎ、濃度のバランスを取る

POINT】「最も味わいが詰まった最後の1滴まで注ぎきることが重要。2煎目以降もおいしく味わえます」。

1煎目は低めの温度の湯でサッと蒸らして深いうま味、2煎目は蒸らさず軽やかな味わいを、3煎目は熱めのお湯で蒸らさずさっぱり淹れれば、味の変化も楽しめます。

【急須がない時は?】
器などに茶葉と湯を入れて抽出し、最後に茶こしで漉す方法も。お茶パックを使う場合は、茶葉がしっかり広がるよう、パックに詰めすぎないことが大事。

プロが伝授!お茶のおいしいペアリング

緑茶は種類によって香りや味わいが様々。個性に合わせて、一緒に味わう食べ物を選べば、お茶とフードが見事にマリアージュ! それぞれの味を引き立て合う、伊藤さんおすすめの組み合わせをご紹介。

[抹茶]×[和菓子]
うま味と共に特徴的な苦みもあるお茶なので、甘い和菓子と合わせるのがおすすめ。時節を表す上生菓子と合わせて、お茶と共に季節の移ろいを楽しんで。

[玉露]×[漬物]
磯の香りにも似た特有の覆い香と濃厚なうま味は、少し塩味のある漬物やあっさりした魚料理と好相性。ゆっくり食事と楽しむのも一興ですよ。

[煎茶]×[果物]
さわやかな煎茶は果物と相性バッチリ。フルーツ大福やドライフルーツもおすすめです。香ばしい煎餅やおかきなど、合わないものはないほど万能なお茶です。

[ほうじ茶]×[チョコレート]
芳(こう)ばしい香りは、チョコやクリーム系の洋菓子と相性抜群。香りの強いほうじ茶やスモーキーな京番茶は、ウイスキーの代わりにチーズやナッツ系のお菓子とも。

柳桜園 おすすめの茶葉

看板商品の最高級薄茶「雅の白」40g 2,592円

石臼で挽きたての香り高い抹茶。口当たり軽やかながら、ほのかな苦味の中に甘味も。

芳醇な香りのかりがねほうじ茶「香悦」86g缶 1,080円

茎の部分を低温で焙煎。上品な水色で滋味深い。『鳥獣人物戯画』をあしらった缶も評判。

一番人気の高級煎茶「朝日」100g袋 2,160円

合組(ブレンド)技術による、うま味と渋み、苦味のバランスが秀逸。飲んだ後の余韻も心地良い。

5~6月限定の特別品「新茶」95g缶 2,160円

「朝日」と同ランクの新茶で、特有の若々しい味と香りが楽しめる。5月10日前後~6月中に販売。

スポット名柳桜園茶舗
時間9:00~18:00
定休日日曜休
問い合わせ075-231-3693
アクセス阪急京都河原町駅下車 約16分、または阪急烏丸駅→地下鉄・京都市役所前駅下車 約4分
住所京都市中京区丁子屋町690【MAP

小林一三生誕150年! 縁の茶道具でお抹茶を

阪急電鉄などを創業した実業家・小林一三。実業家でありながら、美術蒐集家で茶人・逸翁としても知られている。そんな一三収集の美術工芸品約5,500件を所蔵するのが逸翁美術館。

館内には、一三が考案した茶室が「即心庵」として再現されていて、展覧会期間の日曜は呈茶席として抹茶が味わえる。三畳台目の座敷を囲む椅子に座って、往年の茶会を堪能しよう。

スポット名逸翁美術館 即心庵
料金一服500円
時間展覧会会期中の日曜11:00~15:00
問い合わせ072-751-3865
アクセス阪急池田駅下車 約10分
場所池田市栄本町12-27【MAP
備考「阪急昭和モダン図鑑」2023年6月18日まで開催。
大人700円、高大生500円
URLhttps://www.hankyu-bunka.or.jp/itsuo-museum/guide/teicha/

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