喫茶店の始まりは神戸。関西の喫茶文化と時代を超えて愛される名店【TOKK2022年2月号】

【TOKK2022年2月号掲載】

喫茶文化が息づく阪急沿線のそれぞれの街で、長く愛される喫茶店。関西の喫茶文化と、かの有名人も通った、時代を超えて愛される純喫茶の名店を紹介。

関西の喫茶文化

田中 慶一さん

田中 慶一
文筆・編集業の傍ら、関西の喫茶店史、現代のカフェ事情の取材を続け、全国各地で訪れた店は1,000軒超。著書に『神戸とコーヒー 港からはじまる物語』(神戸新聞総合出版センター)、『京都 喫茶店クロニクル』(淡交社)など。「長年続く喫茶店に、京阪神で異なる街の特色を感じるのが、関西ならではの魅力です」。

喫茶店の始まりは神戸から

街中でほっとひと息、コーヒーや紅茶などを楽しむ喫茶店は、日常の憩いに欠かせない存在。その始まりは約150年前に開港した神戸から。元町の老舗(しにせ)茶舗「放香堂」は、記録が現存する中で「日本で初めてコーヒーを提供した店」であり、関西は喫茶店の発祥の一つと言っても良いかもしれません。

ハイカラな港町から舶来の食文化と共に広がった喫茶店は、洋食やお酒も置く高級喫茶や、内装に意匠を凝らしたサロン的空間、今のチェーン店を先駆けた大衆喫茶など、様々な趣味・嗜好(しこう)に応える”街の社交場“として各地に定着。最盛期の1960〜70年代には、ジャズ喫茶、名曲喫茶など、時代の流行を映す新たな趣向が次々に登場しました。

街ごとに喫茶店の個性あり

お店の数では東京をしのぐ大阪をはじめ、全国でも指折りの喫茶店王国・関西。話し好きの土地柄もあってか、街ごとに数多くの喫茶店が点在していますが、京阪神の三都でも個性の違いが感じられます。

コーヒー豆の輸入港であり、いち早く新たなコーヒーの提供スタイルを取り入れてきた神戸。オリジナルの抽出器具を考案したり、濃厚なストロングコーヒーを打ち出したり、商売の街らしく独自の値打ちを打ち出す大阪。そして、戦前から続く老舗が健在で、貴重な建築や調度を受け継ぐ京都。長年、愛される空間やメニューは、地元の人々が通う中で生まれたもの。街々で時代を超えて続く店に、多彩な喫茶文化を感じられるのは関西ならではです。

【烏丸駅】イノダコーヒ 本店<1940年創業>

京都のコーヒー文化を牽引し続ける

イノダコーヒ 本店のレトロな休館
レトロな旧館は人気の席。

京都が誇る全国的に有名な「イノダコーヒ 本店」。創業は、初代がコーヒー豆の卸会社を始めた1940年。その倉庫に残っていた豆を使い、戦後2年の1947年にはコーヒーショップを開業し、物不足の時代に本物の味が楽しめると評判に。

作家・谷崎潤一郎や池波正太郎は、サンドイッチや名物コーヒーに舌鼓を打ち、俳優・水谷八重子、長谷川一夫など演劇界のファンも多かったそう。

開店当時の内装を再現したメモリアル館

開店時のコーヒーショップを再現したメモリアル館には、創業者夫妻の写真が飾られている。

イノダコーヒ 創業者夫妻の写真

名物は、今も定番のコーヒー「アラビアの真珠」。モカベースの深煎りで、最適な量のミルクと砂糖をあらかじめ入れてサーブするのがイノダ流だ。「アラビアの真珠」650円は一度に15杯分をネルドリップすることで、コク深い味わいに。下の写真は、「アラビアの真珠」と、メレンゲとカスタードクリームがたっぷりの「レモンパイ」600円(セット1,150円)。

イノダコーヒ 「アラビアの真珠」と「レモンパイ」

「京都の朝は、イノダコーヒの香りから」というキャッチコピーの通り、常連客は開店前からいつもの席でスタンバイし、旅人も同じ空間でくつろぐのは日常の光景だ。京都にコーヒー文化を根付かせた名店へぜひ。

スポット名イノダコーヒ 本店
時間7:00~18:00(LO17:30)
定休日無休
問い合わせ075-221-0507
アクセス阪急烏丸駅下車 約9分
住所京都市中京区道祐町140【MAP
URL https://www.inoda-coffee.co.jp/shop/honten/
※ガーデン席のみ喫煙可。

【神戸三宮駅】北野坂 にしむら珈琲店<1948年創業>

元会員制の贅(ぜい)を尽くした空間へ

北野坂 にしむら珈琲店の重厚感ある空間
応接間風の設え。100年以上前のドイツ製オルゴールが存在感を放つ。

1948年創業、神戸を代表する老舗「にしむら珈琲店」の中でも”特別“と言われるのが「北野坂店」。1974年、女性創業者が「最高のおもてなしを」と、自宅を改装して開いた日本初の会員制喫茶店だ。

北野坂 にしむら珈琲店のレンガ造りの外観

会員には、杉村春子や山田五十鈴などの舞台関係者や作家・遠藤周作、田辺聖子、実業家・松下幸之助といった各界の名士など5千人以上が名を連ねた。

「にしむらブレンド珈琲」と「パラチンケシュニッテン」

宮水を使った名物のコーヒーも創業者の発案。灘の酒造会社に湧く名水で、今も変わらず淹れるオリジナルブレンドは、苦みと香りのバランスが秀逸だ。カップは「イノダコーヒ」の初代から影響を受けたもの。「にしむらブレンド珈琲」900円。クレープとカスタードなどが層になった「パラチンケシュニッテン」700円(セット1,300円)。

100年以上前のドイツ製のオルゴールと創業者手彫りの木製メニューカバー
左:100年以上前のドイツ製オルゴール 右:ナンバー入りの鍵が会員証だった。木製のメニューカバーは、創業者の手彫り。

震災後は広く魅力を伝えたいと店を一般開放。重厚な調度品を配した贅沢(ぜいたく)な空間やホスピタリティーは今も健在で、極上のコーヒータイムを堪能できる。

スポット名北野坂 にしむら珈琲店
時間10:00~22:00
定休日無休
問い合わせ078-242-2467
アクセス阪急神戸三宮駅下車 約8分
住所神戸市中央区山本通2-1-20【MAP
URL https://kobe-nishimura.jp/kitano/
※全席禁煙。

【大阪梅田駅】マヅラ<1947年創業>

受け継がれる“小宇宙”な喫茶

「生きた建築ミュージアム・大阪セレクション」に選定されたマヅラの内装

終戦後の闇市の時代にこの地で創業し、大阪駅前第1ビルが完成した1970年から現在地で営業する「マヅラ」は、老若男女が次々に訪れる人気店。芸人にファンが多いことでも有名だ。

圧巻なのは”宇宙“をテーマにした内装。クレーターがあしらわれた群青色の天井、鏡張りの壁には惑星のような照明がキラキラと写り込む。創業者が「お客様に夢のような時間を」と、ノートに書き溜めていた構想を実現させた、どの席に座っても特別な席になる、まさに非日常空間だ。 店舗は「生きた建築ミュージアム・大阪セレクション」にも選定されている。

マヅラ「クリームソーダ」

レトロなメニューも魅力。懐かしの「クリームソーダ」380円は、若い世代にも評判。自家焙煎の「コーヒー」は300円と驚きの価格で、「純喫茶のナポリタン」500円や「フルーツサンド」600円など、近年登場したフードも好評だ。「プリンアラモード」600円は、約30年ぶりに復活した。

マヅラ「プリンアラモード」

下の写真は、1960年代に姉妹店で撮影された創業者・劉 盛森(りゅうせいしん)さん。店名は思い出の地、インドネシアの「マドゥラ島」に因むそう。 現在101歳を迎えた創業者の思いは、2・3代目が大切に継承している。

創業者 劉 盛森さん
スポット名マヅラ
時間9:00~21:00(土曜は~18:00。LOは閉店の30分前)
※バーは17:00~23:00 ※ 土曜はバーの営業なし。
定休日日曜・祝日休
問い合わせ06-6345-3400
アクセス阪急大阪梅田駅下車 約10分
住所大阪市北区梅田1-3-1 大阪駅前第1ビル地下1階【MAP
URL https://www.1bld.com/shopguide/gourmet/10361/index.html
※分煙。

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