阪急電車の座席はなぜ座り心地抜群なのか?座席ができるまでの舞台裏!
2020.12.22阪急電車
阪急電車といえば、小豆色のようなマルーンカラーの車体、木目調の壁、緑色の座席生地。この3つを思い浮かべる人は多いのではないでしょうか。長年にわたりデザインが守り続けられていますよね。
そんな中でも、阪急ならではを実感できるのが、座席。落ち着いた緑のカラー、手触りの良い生地、そして抜群に良い座り心地!「何かこだわりがあるのかな?」と思う方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そこで今回は、阪急電車の座席のこだわりを教えてもらおうと、阪急電車の担当者のもとへ行ってお話を聞いてきました!
目次
高級感あふれる、阪急電車の座席の生地
お話をうかがったのは、阪急電鉄技術部で車両設計を担当されている松林さんです。
座席の色や構造など、いろいろと聞いてきました!
阪急と言えば…「ゴールデンオリーブ」の色
阪急電車の座席の色は「緑色」ですが、実は「ゴールデンオリーブ」という名前の色です。昔は生地の色が赤褐色や紺色の時代もあったそうです。下の写真は、阪急電鉄正雀工場に保存されている、生地の色が赤褐色だった頃の車両。
昭和35(1960)年に製造した2000系以降は、「ゴールデンオリーブ」が主流になりました。
ところで、阪急電車の座席に使われている生地の種類は、現在、いくつあるか知っているでしょうか?
答えは6種類。
ひと口にゴールデンオリーブと言っても微妙に色差があり、車両の種類によって4つに分かれています。それに加えて優先座席で使われているマゼンタ色の生地、そして後で登場する「クロスシート」の柄入りの生地と、実は6種類もあるのです。
とことんこだわった生地の素材
そして、生地の表地ですが、これには相当なこだわりがあるようで、古くからモケットが用いられています。
モケットとは、厚手で“けば”のある起毛した生地のこと。その中でも、起毛の復元力が高く、汚れにくく、毛抜けが少なく、色あせしにくく、そして保湿性に優れていて、感触が良いといった生地を使っていて、実はかなりの高級品なのだそう!
これまで、さらに感触の良い素材を選定したり、起毛の高さを0.5ミリ単位で調整したり、何度も試行錯誤をされたそうです。
生地の選定にはコスト面も大切ですが、重視しているのは「お客様の座り心地」。通勤や通学等で、毎日阪急電車を利用されるお客様が、いかに快適に過ごせるかを大事にしています。
そうしたこだわりは、「車内の木目調デコラと座席のゴールデンオリーブのカラーが相まって、車内に独特のやすらぎを感じる」というお客様からのご意見として、松林さんの元にも届いているそうです。
座席の種類は大きく分けて2種類
阪急電車の座席は、車両の進む向きに対して横向きに座る「ロングシート」と、
6300系、8000系、9300系に採用されている「クロスシート」と呼ばれる進行方向の向きに座る座席があります。
「ロングシート」の特長は、仕切りがないのでみなさんで譲り合って座ることができるところ。また緊急時には、座席を出入口に並べて滑り降りて避難するためにも使われるそうです。
これ以外にも、観光列車「京とれいん 雅洛」の座席は、これらとは一味も二味も違う素敵な座席になっています。ぜひ一度乗ってみて、それぞれの座り心地の違いを体験してみてください!
さて、「ロングシート」ですが、座席間に仕切りがついているものがありますよね。新しい電車や改造した電車に導入されています。
基本的には「3人-2人-3人」で座ることが目安になっているそうです。
注目したいのが、1000系、1300系の座席の端にある袖仕切り。
「これにも結構こだわりがあるんです」と松林さん。
座席端部にある大型の袖仕切りは、万が一の急ブレーキ時にお客様の転倒や衝突防止を目的に改良したそうです。
よく見てみると座席側が三角に窪んでいますが、気づいていたでしょうか?
これは、座っているお客様の腕が少しでも窮屈にならないようにするため。
実際、お話を聞いた後に座ってみると、腕のおさまりが確かに良い。お客様のことを考えて、様々な工夫がされているんですね。
こうなっていた!座席の構造
阪急電車の座席に座ってみると、クッションの反発が大きい気がしませんか?座席の中の構造ってどうなっているのだろう?と、松林さんに聞いてみたところ、正雀工場内に座席を補修しているアルナ車両の工場があるということで、見学させてもらうことに!
座席の整備・補修を担当している村田さんのところへ行ってみました。優しい感じの方です。
早速、座席の構造を見せてもらいました。
座席は「盃(さかずき)ばね」という、円錐形のばねを組み込んだ金枠に、フェルト生地、クッション(スポンジ)、白い帆布生地、そして最後に「ゴールデンオリーブ」色の生地を重ねた構造になっています。
ばねとフェルト生地の間に挟まれたグレーのシートは、ばねや金枠が直接体にあたらないようにするためで、その上に衝撃吸収用のクッションを重ねています。
職人魂を感じる座席の取り替え作業
阪急電車の座席生地は数年毎に全て取り替えていて、出来るだけきれいに保っているそうです。クッション素材など劣化したものは新しいものに取り換え、最後に生地を取り付けていきます。
生地を二人で広げ、
体全体で体重をかけて、生地をきれいにセットしていきます。思った以上に、かなり力がいりそう!
真剣なまなざしで、丁寧に枠に合わせていきます。
次は、座席をひっくり返して、シート生地を固定する作業。
「組み立てる時に難しいのは、ぴっちりとフラットに生地を張るところ」だそう。
生地をピンで固定していくのですが、この時に張り具合を一定に止めていかないと波打ってシワになってしまいます。
これも簡単に見えてかなり腕力が必要!さらに、手のひらの水分が生地に奪われてしまって左手のホールド力が弱まるので、こまめに手を濡らして作業をしなくてはいけません。座席の高さが斜めにならないように張り具合も調整しながら、がっちりと左手で力を込めてピンと張っていきます。
たった二人で座席生地の縫製を担当
今度は、生地を縫っている様子を見学させてもらいました。
小さい部屋に入ると、ゴールデンオリーブ色の生地をミシンで縫っている方が。裁断から縫製まで、全ての車両の座席生地を二人のスタッフで担当されています。「高価な生地を使っているので、出来るだけ無駄のないように裁断して、縫製するようにしています」と、工夫している点を教えてくれました。
分厚くて大きな生地を、裏地と一緒に真っすぐに縫い上げるには、コツがあります。少し縫っては一旦手を止めて、後続の生地が歪まないようきれいに整え、そしてまた縫って…と、とにかく丁寧に行うことが大事だそうです。
特に縫製で難しいのが、クロスシート(9300系車両の座席)の生地だそう。複数のパーツやファスナーを立体的に縫い合わせていかなくてはいけないので、集中力が必要。生地が波打たないよう、きれいな直線や弧を描くように縫い合わせていくそうです。
今回、阪急の座席の取り替え作業を見学させてもらいましたが、どの工程も全て手作業だったことにびっくり。一つ一つの工程を、お客様のことを考えて丁寧に作業されていて、職人魂を感じました。
阪急電車の快適な乗り心地は、阪急ブランドを守り抜くスタッフのこだわりと、丁寧な仕事の集大成。今度阪急電車に乗る時は、裏で活躍されているスタッフの方々の顔が思い浮かんできそうです。
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