高浜神社は、吹田のはじまりにも由来する古社。神様が勢ぞろい。縁結びの福うさぎも人気

今回の取材先が「吹田の高浜神社」と聞き、「海や湖のない吹田に、なぜ『高浜』と名の付く神社が?」と素朴な疑問が浮かんだ。ちょっと調べてみると、超有名な「主役級」の神様がずらりとまつられ、どうやら「吹田のはじまり」にも由来する古社だという。ん? 吹田のは・じ・ま・り? もうちょっと調べてみると、1年を通じて数多くのお祭りが開かれ、境内にはかわいらしい「うさぎの像」があることもわかった。さらに「吹田だんじり祭」で曳行(えいこう)される「だんじり」まで保管されているらしい。なんだかユニークな神社の予感。俄然(がぜん)、興味が湧いてきた。

高浜神社へのアクセス

鳥居

阪急京都線「相川」駅の西口を出て少し歩くと、「安威川(あいがわ)」が見えてくる。橋を渡り、住宅街を道なりに歩いて約8分。高さ6メートルほどだろうか、石造りの立派な正面鳥居にたどり着く。約80メートルある石畳の参道の先に本殿が見える。
JR京都線「吹田」駅からだと、中央改札口を出て「旭通商店街」を抜け、そのまま進むと正面鳥居の前に出る。徒歩約7分ほどだ。

高浜神社の歴史 「次田」が「吹田」に

参道

広々とした駐車場の間にある参道を抜け、本殿脇の社務所へ。「ようこそ、お参りくださいました」と、宮司の岡本さんが出迎えてくれた。挨拶もそこそこに「高浜神社が『吹田のはじまり』に関係していると聞いたのですが」と勢い込んで尋ねる。
宮司さんや各種資料などによると、その由来はこうだ。大昔、大阪湾の海岸線は平野部まで深く入り込んでいた。約1600年前の古墳時代中期(5世紀)ごろには「河内湖」という巨大な湖ができ、ほとりにある小高いこの地は「高浜」と呼ばれていた。そこに移り住んできたのが「次田連(すきたのむらじ)」という豪族。その頃に祖神をまつって創建されたのが高浜神社だ。やがて、豪族の「すきた」が地名となり、読み方も「すいた」へと変化。「吹田」という字が使われるようになった──。ふふっ、このあたりは湖だったのか。「高浜神社」という名称にも、「吹田のはじまり」という説にも納得。謎が一つ解けた。

「神様のオールスター集団」 ご利益もさまざま

本殿

続いてたたみかけるように「神様もいっぱいおられるそうで」と質問。息つく暇もない問いかけにも、宮司さんは落ち着いて、境内の建物や神様について説明してくれた。高浜神社には全部で15柱(はしら)の神様がまつられているという。
境内の広さは約7400平方メートル。拝殿と本殿がつながった形で建てられており、これが最も古い建物。江戸時代の1693年建立と伝わる。
ここには主神の「素戔嗚尊(すさのおのみこと)」をはじめ、「天照大神(あまてらすおおみかみ)」、「春日大神(かすがおおかみ)」といった7柱の有名な神様が。本殿にこれだけ多くの神様がまつられているのは珍しいそうだ。「たくさん集まっていただいて、ありがたいことです」と宮司さん。

えびす殿

本殿に向かって左側には「えびす殿」が並ぶ。大黒様で知られる「大国主命(おおくにぬしのみこと)」と、その子どもとされる「事代主命(ことしろぬしのみこと)」がまつられている。商売繁盛を祈願する「えびす大黒まつり」の時には、ここが主役となる。

稲荷

その左手に建つのが「稲荷神社」。朱色があざやかな7基の鳥居をくぐり、社をのぞくと、お稲荷さまの使いの「お狐さん」の姿が見られる。

三社

稲荷神社の隣には「三社(さんしゃ)」と呼ばれる建物がある。大阪夏の陣(1615年)の際に、大阪天満宮の神輿(みこし)が避難してきた縁でまつられることになった菅原道真公など5柱の神様がいるそうだ。
まさに「神様のオールスター集団」とも言えるラインナップ。でも、ちょっと気になった。神様同士って、ケンカしないんですか? 宮司さんは「神社におられる神様はケンカなさいませんよ」と笑顔できっぱり。
ご利益は開運厄除、病気平癒、家内安全、縁結び、商売繁盛、学業成就、安産、交通安全、ぼけ封じ、長寿など多岐に渡る。「うちにお参りいただければ、ありとあらゆるご利益を授かることができます」。きっと地域の人々から頼りにされている神社なのだろうと感じた。

「福うさぎ」で縁結びを祈願

福うさぎ

手水舎のそば、高さ1メートルほどの台座の上にちょこんと座っている像が「福うさぎ」だ。大国主命もまつっている高浜神社。皮をはがされたうさぎを大国主命が助けたという「因幡の白うさぎ」の神話にちなみ、干支(えと)のうさぎ年を控えた2022年にこの像が奉納された。

福うさぎ

ピンと伸びた耳に、つぶらな赤い目。かわいらしくも、りりしい表情のうさぎは宮司さんがデザインした。首にかけられているレースの前掛けも神職らのハンドメイドだ。
神話では、うさぎが紹介した姫と大国主命が結婚。うさぎは良縁を結ぶ存在とされ、福うさぎをなでたり、授与所にある「福の石」「願い石」「叶い石」(初穂料各600円)を供えたりすると、ご利益を授かることができるそう。筆者も福うさぎのつるつるした頭をそっとなでた。

うさぎ像

境内には、高さ10~30cmほどのうさぎの陶像も10体ほど置かれている。建物の脇や木陰などにいる様子は、まるでうさぎたちが「かくれんぼ」をしているようで微笑ましい。じっくりと探してみると、あ、こんなところにも! 福をたくさんいただいた気持ちになる。

うさぎ像

これらの陶像はうさぎ年の2023年1月に奉納されたが、その直後、5体が持ち去られてしまった。しかし約1カ月後、地域の人々や警察の協力で、すべて無事に戻ってきた。宮司さんは「皆さんのおかげ。人のご縁をつくづく感じる出来事でした」と話す。幸運を分かち合いたいと、うさぎ年が過ぎた後も境内に置いているのだという。

ご神木

このほか境内では、白蛇をまつるご神木、道真公と関係が深い「なで牛」の像、江戸時代前期に建てられたとされる「吹田最古の石燈籠(いしどうろう)」なども見ることができる。

年中行事

1年を通じて、さまざまな行事が催されている。お祭りの福娘や福男、巫女(みこ)や神輿の曳(ひ)き手などは一般からも募集する。参加してご神徳を授かってみてはいかがだろうか。主な行事を紹介したい。

初詣 「招福の梅」授与

招福の梅のための梅を収穫する巫女

参道に露店が並び、多くの初詣客が訪れるお正月。1日午前0時からは先着600人に「招福の梅」が授与される。境内で栽培されている梅を神職が収穫し、塩漬けした手作りの梅干し。これを楽しみに訪れる参拝者も多いそうだ。

「えびす大黒まつり」 巫女の神楽の舞いも

福娘と縁起物

毎年1月9日からの3日間は「えびす大黒まつり」が開かれる。「商売繁盛で笹持ってこ~い」の掛け声が境内に響き、福を求める多くの人でにぎわう。
「福笹」に「福熊手」や「福鯛」などの縁起物を飾り、えびす殿にある白布の台に置くと、巫女が約3分間、笛や太鼓の音色とともに舞いを披露。最後は巫女鈴をかざし、「シャンシャン」と鳴らしてくれる。高浜神社ならではの「おもてなし」と言えるかもしれない。特設舞台では地域住民が参加する「奉納カラオケ大会」も開かれ、甘酒も振る舞われる。

春祭り(神幸祭)

春祭りの神輿渡御の様子

5月5日は春祭り。お神輿や稚児行列など総勢100人以上で地域を練り歩く。お神輿は、少子化などの影響で担ぎ手が不足し、現在は台車に乗せて曳く形になった。氏子や自治会関係者に限っていた曳き手も、2024年からは一般からも募集している。性別は問わず、元気な人なら小学生から大人まで参加可能。参加費は無料で、休憩所での軽食などのほか、焼菓子のお土産がいただける。男女ともに神職らが手作りした色鮮やかな法被が貸し出される。
行列で槍(やり)などの大道具を持つ「奴(やっこ)さん」、お稚児さん(衣装代有料)といった、さまざまなお役目も募る。

法被をきた曳き手

また、お正月と「えびす大黒まつり」、「春祭り」では、福娘や福男、巫女を募集。いずれも人気が高く、かなりの倍率になるそうだ。応募方法などは、時期が近づくと高浜神社のホームページに掲載される。

夏越大祓(茅の輪くぐり)

茅の輪くぐり

関西各地の神社では、1年の折り返しにあたる6月30日に無病息災を祈る「夏越大祓(なごしのおおはらい)」が行われ、高浜神社でも午後3時から神事がある。前後の約1週間ずつは「茅の輪くぐり」ができる。初穂料を1200円以上納めると、「茅の輪御守り」が授与される。

七五三参り

七五三の祈祷(きとう)は通年行っている。1家族だけのときは、祈祷中も写真撮影ができる。授与品の「記念メダル」が子どもに人気だそうだ。

お守りの紹介 シースルーの「福守」にペットのお守りも

福守

女性に特に人気のお守りがシースルー仕様の「福守」。レース生地に2羽のうさぎの刺繍(ししゅう)が施された繊細な袋。中には透明なお札が入っており、光にかざすとうさぎのシルエットが浮かび上がる。光をよく通すことから、願いもよく通るとされるお守りだ。
「縁結び御守りうさぎ恋結び」は、恋愛や結婚にご利益があるとされる。匂い袋からちょこんと顔を出す2羽の小さなうさぎが愛らしい。

お守り

「ペット御守」は、肉球をあしらったちりめん生地が透明の樹脂で包まれている。首輪やリードにつけてもペットがけがをしないようにという気遣いから、柔らかい素材を使っている。ペットがいてもいなくても、ほしくなってしまうデザインだ。
「白蛇金運御守」は、金運・開運のお守り。財布などに入れやすいカード型となっている。

御朱印

御朱印は、神職手書きの書置きが用意されている(2025年2月時点)。

200年以上前のだんじり 今なお現役で曳行

庫内の六地蔵地車

200年以上前の江戸時代に作られ、今なお美しい姿のまま曳行されるだんじりが、吹田市に7基残っている。高浜神社の氏子地域ではこのうち5基を所有し、神社のだんじり庫などで3基が保管されている。
1839年に作られたという「六地蔵地車(だんじり)」を見せてもらうため、吹田だんじり祭実行委員会会長の水谷英明さんの案内で、だんじり庫内へ。

六地蔵地車の獅噛み

水谷さんが懐中電灯で照らすと、いきなりぎょろっと光る目と目が合った。「うゎ」と思わず声が出る。彫り物の獅子がだんじりの屋根にかみついている。「獅噛み(しがみ)」というらしく、高さ4メートル近いところから、こちらを見下ろしている。その姿は迫力満点。

のぼり竜

柱には登竜(のぼりりゅう)が巻き付き、側面には「三国志」を題材にした人物像、麒麟(きりん)や牡丹(ぼたん)などが、立体的に彫り上げられている。美しい……。だんじりを間近で見るのは初めての筆者。彫刻師の技術に驚くばかりだ。暗がりの中でもその精巧さが伝わってきた。

六地蔵地車

当時の姿のまま保存され、曳行可能なだんじりは大阪府下でも珍しく、7基全てが吹田市の指定有形民俗文化財に指定されている。建造された年や大工・彫刻師の名前が判明していることも貴重なのだという。「あの有名な岸和田だんじり祭の関係者もやって来て、写真を撮っていきはるんですよ」と水谷さんも誇らしげだ。

六地蔵地車

毎年7月の最終日曜日に開催される吹田だんじり祭では、「おーた、おーた」の掛け声とともに6基が、40~50人に曳かれてゆったりと高浜神社の周辺を行き交う。「この価値ある勇姿を多くの人々に見ていただきたい」と水谷さん。
なお、だんじり7基のうち1基が常時、高浜神社から徒歩3分の「吹田歴史文化まちづくりセンター」で展示され、見学もできる(入館無料。開館日はホームページで要確認)。大阪・関西万博でも府内各地のだんじりが集まるイベントが企画されており、吹田からも1基が参加予定だ。

まちおこしイベントにも協力

フリーマーケット

「吹田のはじまり」の古代から、この地域を見守ってきた高浜神社。かつての巨大湖のほとりは風光明媚な景勝地となり、神社の由緒によると、皇族をはじめ、藤原氏、足利将軍家といった多くの要人も参拝に訪れたとされる。
時を経て、現在は「地域を盛り上げる協力ができれば」(宮司さん)と、フリーマーケットを開いたり、近隣の商店街が主催する「コスプレフェスタ」に境内を貸し出したり。約1600年もの伝統を紡ぎながら、現代風のイベントを採り入れて地域をつなぐ役割を果たしている。ご利益も多彩で、知れば知るほどユニークな神社だった。

「高浜神社」の基本情報

スポット名高浜神社
時間境内自由(社務所は9時~17時)
問い合わせ06-6381-0494
アクセス阪急京都線「相川」駅から徒歩約8分。
JR京都線「吹田」駅から徒歩約7分。
駐車場境内に約60台の駐車場がある。通常30分100円、1日最大600円。ご祈祷を受けている間は無料になる。駐車券を社務所に持参しよう。大晦日、正月、えびす大黒まつりの際は無料開放されているが、入出庫に時間がかかる。なるべく公共交通機関を利用したい。
住所大阪府吹田市高浜町5番34号【MAP
URLhttp://takahamajinjya.kir.jp/

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生まれも育ちも京都。阪急電車の全駅を紹介した『まちあるき手帖 神戸線・宝塚線・京都線』を編集し、阪急電車の全駅を踏破した経験の持ち主。気になること、興味の対象は数限りなく、一日24時間では足りない!

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