阪急沿線 門前町物語。昔も今もにぎわう門前町を訪ねる【TOKK2023年2月号】
2023.01.25特集
商店街として多くの人が訪れるエリアも始まりは門前町。
沿線の門前町の歴史や文化を紐解きご紹介。
目次
門前町とは…
門前町とは、有力な寺院・神社の周辺に形成された町のことで、代表的なものとしては、伊勢神宮の宇治・山田、信濃善光寺の長野、比叡山延暦寺の坂本などが挙げられる。特に神社を中心に発展している場合は、鳥居前町(とりいまえまち)ともいわれる。中世になると、多くの参詣者を集める神社や寺院の前には、社寺関係者や参詣者を相手にする商工業者が集まる市が形成されることが多くなった。
寺社は神仏を祀(まつ)る神聖な場所で、その門前で行われる売買には不正があってはならないとする商道の信仰があったため、商取引の安全な地区としてお上より保護されるものも。さらに時代が進み、庶民の寺社参詣が盛んになると、寺社門前には参詣者を目当てとした旅籠(はたご)や茶屋、商店、手工業者の店などが集まるようになっていった。
【宝塚】清荒神/清荒神参道商店会
龍の道をのぼりながら古きを温(たず)ね新しきを知る
真言三宝宗の大本山である清荒神清澄寺は、神仏習合の古刹(こさつ)である。896年の開創より幾度も火災を免れ、空襲でも焼けずに残った「荒神さん」への地元の竈(かまど)信仰は篤(あつ)い。
緩やかな坂道が約1.2km続く参道は、龍が天に昇る姿をかたち取って創られたと伝えられる。「一の鳥居」前には有馬街道が通っており、江戸時代には有馬へ向かう湯治客が参詣に立ち寄るように。なお、一の鳥居より駅側の商店街は、1910年、阪急電鉄の前身である箕面有馬電気軌道の開通を機に延長された。
「参道では甘酒やこぼれ梅(みりんの搾りかす)、鯖寿司が人気で、往時は食べ比べができるほど店があったそうですよ」と清荒神参道商店会副会長の金子二郎さん。会長のイタノシゲさんも「やはり参道は商店でにぎわっていてほしいですね」と続ける。
昨年5月にイタノさんも自身の店「シチニア食堂」を参道沿いに移転リニューアルオープンさせたばかり。「単に人通りのあるところへ店を出したい人には(商店街は)面倒な付き合いかもしれませんが、お寺さんのお膝元で商いをさせてもらう安心感というか…。お寺さんあっての我々、『ちょっとお寺さんに聞いてみよか』という感覚は門前町の人に共通する思いで、これからも大切にしていきたいですね」。
ノスタルジックさもありながら、新しいコトもどんどん展開していく魅力的な門前町。その居心地の良さを味わいに、ふらりと訪れてみては。
さん志ょうや本家
この界隈が山椒畑だった頃から続く佃煮専門店。有馬街道から参道に移転した今も、店内にはお茶漬けにぴったりの品がそろう。
昔ながらのキリリとした醤油味に炊き上げた、但馬の朝倉山椒などを求める参詣帰りの客がひっきりなしに訪れる。
時間 | 9:15〜17:00 |
定休日 | 水曜休 |
問い合わせ | 0797-87-2041 |
アクセス | 阪急清荒神駅下車すぐ |
住所 | 宝塚市清荒神1-11-15【MAP】 |
URL | https://shop.3408.jp/ |
【京都】八坂神社/祇園商店街
青龍が護るまちの清めと祓(はら)いの参道へ
八坂神社は京を護る四神の青龍、つまり東を守護する神社で、794年の平安京遷都以前より鎮座する古社である。明治維新までは「祇園社」と称され、今も「祇園さん」の名で親しまれている。四条通の東端に見える朱塗りの楼門が有名だが、正門は南側にあり、かつて「百度大路」と呼ばれた下河原通が表参道に当たる。
四条通に沿って鴨川まで延びる祇園商店街は、裏参道の門前町として平安の世から発展してきた。「そうは言っても、元禄の頃は、まだ薮だらけやったそうですよ」と話すのは、祇園商店街振興組合理事長の北村典生さん。
京寿司の老舗(しにせ)「いづ重」の店主でもある北村さんは、八坂神社と石段下から続く門前町一帯を「水を護る、浄化の地」だと表す。京都では今でも井戸水を使う商店が少なくないが、昨年3月に店舗改装中の「いづ重」から新たに飲用可能な湧水が出たとの知らせは驚きをもって迎えられた。
八坂神社の本殿の下には「龍穴(りゅうけつ)」と呼ばれる大きな池があり、青龍が棲むとの言い伝えが残る。7月の「祇園祭」では1カ月にわたり疫病退散を祈願する様々な神事が行われるが、昨年からは山鉾巡行の際に山鉾が辻回しをする交差点を、八坂神社の御神水でお清めが行われるようになった。古より京都の祭りや食の文化を支えてきた祇園。水を護り、水に護られることで、まちにも潤いがもたらされている。
御菓子司 鍵善良房(かぎぜんよしふさ)
八坂神社の氏子としての付き合いも長い、祇園商店街の中でも老舗中の老舗。季節の行事やお詣りの帰りに立ち寄る客の多くが注文する「くずきり」は、材料が吉野本葛と水のみというシンプルの極み。
注文後に葛を水で溶くところから。できたてならではの食感をぜひ。波照間島産の黒糖蜜か白蜜ですっきりと。
時間 | 10:00~18:00(17:30LO) |
定休日 | 月曜休 ※2023年2月6〜20日は修繕工事のため喫茶は休業。高台寺店は通常営業。 |
問い合わせ | 075-561-1818 |
アクセス | 阪急京都河原町駅下車 約5分 |
住所 | 京都市東山区祇園町264【MAP】 |
URL | https://www.kagizen.co.jp/ |
総本家にしんそば 松葉
身近な食事処である一方、年末年始などハレの日の行事食にも欠かせない名店。南座に隣接するため、役者にも贔屓(ひいき)が多い。
昨年は丼の模様を八坂神社の宮司にも助言をもらうなどして新調した。厄落としや験担ぎに、さらに相応しい一杯に。
時間 | 10:30~21:30 |
定休日 | 水・木曜休 |
問い合わせ | 075-561-1451 |
アクセス | 阪急京都河原町駅下車すぐ |
住所 | 京都市東山区川端町192【MAP】 |
URL | http://www.sobamatsuba.co.jp/ |
【西宮】西宮神社/戎参道 西宮中央商店街
行き交うえびす顔にまちの在り方を知る
“えべっさん”こと、全国のえびす宮の総本社「西宮神社」。鎮座の年代は明らかではないものの、平安時代後期の文献に度々記載が確認されている。
西宮が西国街道の宿場町として開かれ市が立つようになると、商売繁盛の神様と崇められ、灘五郷の一つ西宮郷の銘酒とともに門前町は隆盛を極めていった。
「元々は東西に走る西国街道沿いに西宮本町商店街が栄えていたのですが、明治38年に阪神電車の西宮駅ができると、少しずつ人の流れが変わり、南北の通り沿いに移転した商店もあったようです」と話すのは、戎参道西宮中央商店街振興組合で副理事長を務める山本雅一さん。
阪神・淡路大震災によって、かつてのアーケード街から景観は大きく変化したが、大正時代から続く和菓子店や創業100年を越える呉服店などが今も残る。一方で、元阪神タイガースの選手が経営する焼き鳥店や季節の野菜が入るユニークなたこ焼き店、スタイリッシュなカフェを併設するコワーキングスペースなど、新しい風も。
毎年1月9~11日の「十日えびす」には、百万人に及ぶ参拝者が集まる参道も普段は穏やかな人通り。学校帰りの子どもたちと店主が明るく挨拶を交わす姿が見られる、笑顔の似合う門前町だ。
小松屋昆布店
西宮神社に奉納される縁起物から普段使いの佃煮まで、様々な昆布がそろう専門店。天然物へのこだわりは、採品する浜の指定にまで及ぶことも。
関西の出汁文化を100年以上にわたり支えてきた自負が滲む、昆布愛に溢れた接客も魅力的。
時間 | 10:00~18:00 |
定休日 | 日曜・祝日休 |
問い合わせ | 0798-22-1857 |
アクセス | 阪急夙川駅下車約20分または阪神・西宮駅下車 約4分 |
住所 | 西宮市馬場町4-12【MAP】 |
URL | https://www.instagram.com/komatsuya_konbu/?hl=ja |
大阪天満宮/天神橋筋商店街
日本一の長さとにぎわい 天神様のアーケード街
境内の北西に鎮座する大将軍社を創建のきっかけとする大阪天満宮。901年に菅原道真公が九州の太宰府に配転させられた際、旅の安全を祈願し参詣したという天神様ゆかりの梅のお宮でもある。
長い歴史の中で一丁目から順に細長い門前町を形成していき、江戸末期には天神橋筋商店街が誕生。金網篩(ふるい)や刃物店、菓子店などが軒を連ね、当時は「十丁目筋」との呼び名も。水運の発達を生かした大阪の三大市場の一つ「天満青物市場」と並び、天下の台所・大阪らしいにぎわいを見せたという。
まちの天満宮への信仰も篤く、江戸期の記録に残るだけでも7回の火事に見舞われた天満宮の再建は、氏子や町民の献身的な奉仕があったればこそ。現在もその思いは強く、7月の「天神祭」では、まち全体が熱気に包まれる。天神橋一丁目から七丁目まで南北に2.6km、日本一長いアーケード商店街を練り歩く御羽車巡行やギャルみこしは大阪の夏の顔の一つだ。
天神橋三丁目商店街振興組合の理事長・築部健二さんは「ここ数年は全て催行できず寂しかったが、今年こそは」と期待を膨らませる。また、提灯や鳥居など個性的な意匠のアーケードをはじめ、各丁ごとの違いも楽しんで欲しいと話す。上方落語専門の定席小屋「天満天神繁昌亭」に、昭和レトロな純喫茶、行列のできるコロッケ屋や老舗の呉服店など、衣・食・遊がそろう活気に満ちた全ての魅力を味わい尽くすのも、また長い道のりである。
御菓子司 薫々堂(くんくんどう)
1864年に大阪天満宮戎門前にて創業した老舗に相応しく、天神さんから漂う梅花の香りが屋号の由来。
現在は三丁目商店街に店を構える。大の落語好きの店主による「ちりとてちん」など、落語をテーマにしたユニークな季節菓子も好評。
時間 | 10:00~19:00 |
定休日 | 火曜休 |
問い合わせ | 06-6351-0375 |
アクセス | 阪急大阪梅田・天神橋筋六丁目各駅→地下鉄・南森町駅下車 約4分 |
住所 | 大阪市北区天神橋3-2-27【MAP】 |
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