職人の手仕事と科学の力に迫る。桜の美しさをデザインする【TOKK2025年3月号】
2025.02.25特集
桜に携わるスペシャリストたちに取材して、桜の一生や品種についてご紹介。阪急沿線にある、おすすめ桜スポットもご案内!
美しい桜を育てるには?
造幣局の桜の通り抜けは、関西屈指の桜の名所。
あの美しい桜が花開くまでには、一体どんな背景があるのか?
長年桜に携わってきた職員の渡邊さんに、たっぷり話を伺った。
お話を伺ったのは…
造幣局 貨幣部 施設課 保全係 渡邊秀勝さん

1991年入局。主な仕事として貨幣の製造設備の修繕などを行うかたわら、桜に関する業務を担当。桜の育成や維持管理、記録作成など幅広い業務に携わる。
桜の一生とは?生まれてから寿命まで
「造幣局では、苗木や若木を購入するか、接ぎ木や芽接ぎを行って桜の数を増やします。現在は接ぎ木が多く、昨年2月には50本ほど接ぎ木を行いました。その時点では、桜はまだ樹高30㎝ほどのミニサイズ。無事に活着したものを養成地で約10年育成し、通り抜け通路に移植します。お客様に10~30年ほど楽しんでいただき、最終的には枯死や衰弱、枝を切除して樹形が悪くなるなどすると、植え替えの対象となります。
記録によると、当局に現存する最も古い桜は、1959年に通り抜け通路に植栽された『関山』という品種の八重桜。10年ものを植栽したとして、推定樹齢は現在75年。桜の寿命は一般的に約50年と言われますので、この桜はかなり長寿です」。
桜が美しく咲く条件は?
「造幣局の社内報(昭和53年3月号)に〝近年公害防止対策が進んだことで、周辺地域の自然環境が改善し、通り抜け通路の桜のうち、昨年枯死したものは9本に減少した〟と書かれています。そのため、きれいな空気や水といった自然環境と、病害虫の予防や駆除、施肥(せひ)といった人の手による管理の両方が、桜が美しく咲く条件になると考えています」と渡邊さん。昔は桜樹に付着したタール類を水洗いで落とす〝幹洗い〟を行うこともあったが、現在は必要なくなったという。
造幣局で見られる桜の品種
造幣局で出合える桜は、局内でもっとも本数が多い『関山』をはじめ140品種以上!『関山』とは開花時期の異なる品種も導入し、長期間楽しめるように工夫しているそう。品種ごとの個性にも注目してみて。
もっとも多いのは八重桜

1.関山(かんざん)
日本原産の里桜で、八重桜の代表的品種。強健で生育がよいことから、海外でも多く植栽されている。

2.普賢象(ふげんぞう)
室町時代から知られる八重桜。葉化した2本の雌しべが、普賢菩薩の乗る象の鼻に形が似ていると、この名が付いた。
手毬のように咲く珍しい桜

3.大手毬(おおてまり)
枝の先に多数の花が密生して咲く姿は、大きい手毬のよう。他ではめったに見られない珍しい品種。
担当者のお気に入りは花の色が変化する桜

4.須磨浦普賢象(すまうらふげんぞう)
「始めは黄緑色の花ですが、開花すると花弁の基部から徐々に紅色に。色の変化を楽しめます」と渡邊さん。
様々な桜が順番に花開く

5.六高菊(ろっこうぎく)
花弁の枚数が多く、菊の花に似ている。旧制第六高等学校(現岡山大学)の校庭にあったことから名付けられた。

6.御衣黄(ぎょいこう)
花は緑色で、開花が進むと中心に紅色の縦線が現れる。貴族の衣服・御衣の萌黄色(もえぎいろ)に近いことが名の由来。
来場者に選ばれた「今年の桜」

7.蘭蘭(らんらん)
北海道で誕生。上野動物園のパンダ・蘭蘭への追悼を込めて命名された。昨年の来場者による人気投票で「今年の桜」に決定。
手入れは地道な作業の連続
どのように維持管理している?
同局では「できる限り手を加えず自然のままに」という考えのもと桜を維持管理している。桜樹を一本一本確認し、育成状態の良し悪しや病害虫の有無、枯枝や蘖(ひこばえ)※の有無、支柱の要否などを調査。樹木の成長に悪影響を与える病害虫やキノコ、枯枝、蘖は駆除または切除する。地道で大変な作業も多いが、「来場者に美しい桜を安全に楽しんでほしい」と日々奮闘しているそうだ。
※蘖…樹木の根元から生えてくる若芽。栄養を奪い樹木への栄養が行き届きにくくなる。
担当者が思う造幣局の桜の魅力
渡邊さんは「個性豊かな多くの品種を1カ所で楽しめるのが魅力。お客様に楽しんでほしいとの思いから、新品種の育成にも力を入れており、昨年は141品種の桜をご覧いただくことができました。ぜひ現地でお楽しみください」と話す。今年も春爛漫の季節が待ち遠しい。
造幣局 桜の通り抜け

旧藤堂藩蔵屋敷で育成されていた全国の珍しい里桜を、造幣局が敷地とともに受け継いだと伝わる。1883年、当時の局長・遠藤謹助が「局員だけの花見ではもったいない。大阪市民とともに楽しもうではないか」と発案し、桜並木の一般開放が始まったと言われている。
イベント名 | 造幣局 桜の通り抜け |
料金 | 入場無料 ※来場は要事前申込。予約方法などの詳細は3月上旬頃に造幣局ホームページにて公開予定。 |
開催期間 | 4月上旬の1週間 |
定休日 | 期間中無休 |
問い合わせ | 06-6351-5361 |
アクセス | 阪急大阪梅田駅→地下鉄・天満橋駅下車 約15分 |
住所 | 大阪市北区天満1-1-79【MAP】 |
URL | mint.go.jp |
桜と植物バイオテクノロジー
西宮市オリジナルの新しい品種を開発
西宮市には、市オリジナルの桜が5品種ある。西宮市花と緑の課の池田さんによると、『西宮権現平桜(にしのみやごんげんだいらざくら)』は、著名な桜博士・笹部新太郎氏が絶賛した桜に由来するもの。『夙川舞桜』、『今津紅寒桜(いまづべにかんざくら)』、『越水早咲き』は、市内で発見されたものだという。
「桜には自家不和合性という特性があり、一本の木に咲く花同士では受粉せず、別個体同士でしか受粉しません。その特性もふまえ、『夙川舞桜』は自然交配の中で偶然生まれたと思われます」とのこと。
西宮市北山緑化植物園内にある「植物生産研究センター」が品種改良で生み出したのが、鉢植えで楽しめる小ぶりの品種『宮の雛桜』。同園では『宮の雛桜』の苗を販売しているので、購入して自宅で桜を育てるのも楽しいだろう。

品種改良には、性質の異なる同種の植物同士を交配する、種類の近い別の植物と交配する、放射線や化学物質を用いて突然変異させるなど様々な方法がある。そして、西宮市では品種改良したオリジナル品種の苗を培養増殖で増やしている。これは、植物の一部を切り取って栄養分が入った無菌の瓶の中で培養し、育ってきたら外の環境に慣らす馴化(じゅんか)を行い、最後は土に植え替える方法。無菌状態で培養するため植物が病気にならず、効率よく苗を量産できるそうだ。

同園ではのんびりと花見を楽しめる
同園の今井さんは、「桜と色とりどりの春の花を一緒に見られるのが、西宮市北山緑化植物園の魅力です。個人的に好きなのは『八重紅枝垂れ』。八重咲きの枝垂れ桜で、花がふわりと大きく広がって咲く姿に圧倒されます」と話す。芝生広場でくつろぎながら、美しい春景色を堪能してみて。
【夙川・甲陽園各駅】西宮市北山緑化植物園

スポット名 | 西宮市北山緑化植物園 |
営業時間 | 入園自由(各施設は10:00〜16:00、水曜休〈祝日の場合は開園、翌日休〉) |
問い合わせ | 0798-72-9391 |
アクセス | 阪急夙川駅→阪急バスまたはさくらやまなみバス・柏堂町停下車すぐ、または阪急甲陽園駅下車 約40分 |
住所 | 西宮市北山町1-1【MAP】 |
URL | https://www.nishi.or.jp/kotsu/kankyo/hanatomidori/shokubutsuen/index.html |
阪急沿線の桜NEWS

衰弱した桜を植え替えて「花のみち」を再生
昨年春から、「花のみち」の枯損(こそん)や衰弱した桜14本の植え替えが始まった。企業版ふるさと納税を利用して阪急電鉄が出資、阪神園芸が整備を担当し、プロジェクトが実現した。
新たに植樹されたのは、病害虫に強い一重桜の『神代曙(じんだいあけぼの)』や八重桜の『関山』。施肥などの土壌改良や、日照不足解消のために桜上部を覆う松の剪定も行われる。「花のみちは、桜などの花やクロマツによる大きな緑陰、沿道の建築物など見ごたえのある散策路です」と宝塚市道路管理課の石川さん。再生した「花のみち」は、これからも私たちを魅了してくれるだろう。
【宝塚駅】花のみち

問い合わせ | 0797-77-2012(宝塚市観光にぎわい課) |
アクセス | 阪急宝塚駅下車すぐ【MAP】 |
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