阪急沿線のアートをめぐる。沿線の芸術に触れる旅へ【TOKK2024年10月号】

阪急沿線には、名作と呼ばれるアートが多く存在する。
期間限定で公開される作品も含め、この秋に沿線で注目したいアートスポットを紹介。

大阪・兵庫・京都の美術への嗜好の違い

沿線の様々な場所で開催される美術展。福田美術館・学芸員の岡田さんは「明確にエリアで分かれているわけではありませんが、エリアごとに好みがあるのは確か」と話す。大阪は岡本太郎、兵庫はA・ミュシャなどの西洋画、京都は江戸時代地元で活躍した円山応挙、長沢芦雪などが好まれる印象だとか。特に京都においては、円山応挙のことを親しみを込めて「応挙さん」と“さん付け”で作者を呼ぶほど日本画が生活に根付いており、美術鑑賞が特別なことではないことを実感するそう。

近年人気の江戸絵画!きっかけは…

現在、江戸絵画の人気が高まっている。葛飾北斎、安藤広重、歌川国芳など元から浮世絵の人気もあったが、今のような江戸絵画人気のきっかけは「間違いなく伊藤若冲」だと岡田さん。これは、精緻な描写と奥行きを表現できる裏彩色や筋目描きなど、当時の先進的な試みを多数行った若冲がインターネットで若い世代にバズったことで、より幅広い世代で認知度が上がり、一躍人気になったのだとか。それにより個人の楽しみ方にも変化があると話す。「各人が自分の興味がある情報をネットなどで収集し、より興味のあることを自ら深めていく」スタイルが今のアートの楽しみ方の主流になったと考えているそう。

大阪は全国最少数の美術館数?

大阪府は、かつて人口比率に対して博物館類の数が全国で最も少ないという結果が出たことがある※。だが美術品が少ないか…と言えば、そうとも言い切れない。それには阪急沿線に文化発祥の地が多いことが影響していると考えられる。商人文化が発達してきた大阪、日本人の美意識に影響を与えた室町文化が花開いた京都、明治期以降、大阪や神戸で成功した財界人が屋敷や別荘を構え、阪神間モダニズムが育まれた兵庫など、阪急沿線では古くから企業家や文化人といった個人によって美術品が数多くコレクションされ、また支援がされてきた。それにより、美術館や博物館は少なくても、オフィスビルの中や公共の文化施設、道沿いや公園を使って作品が数多く展示されているのが関西の特徴なのだ。
※文部科学省 社会教育調査 2015年。

阪急沿線のアートをめぐろう

見るべき名画や美術品が多くある阪急沿線。教科書に載っていた誰もが見たことのある作品から、世界遺産にもなった有名建築家設計の住宅、私設美術館の南蛮アートなど、いずれも美術価値だけでなく、展示や設立に至る興味深いエピソードを持つものも多い。この秋はそんな背景も感じながら、限定公開される貴重な作品を見に出かけてみては。

【京都・嵐山】ルーツが垣間見える江戸時代の巨匠の大作「福田美術館」

果蔬図巻(かそずかん)1790年以前 伊藤若冲

70代の若冲が描いた絵巻物。晩年の若冲では珍しい絹本着色※で、鮮やかな色あいの野菜や果物が季節関係なく描かれている。2023年にヨーロッパで発見、今回が世界初公開。発注主が判明している珍しい作品で、1792年制作の「菜蟲譜」と共通点も多い。
※絹本着色 絹地に色絵の具で描いた作品のこと。絹地の持つ光沢が、作品にやわらかさと上品さをもたらす。

円山応挙など、京都で活躍した江戸時代から現代までの日本画家の作品を多く所蔵する福田美術館。10月1日で開館5周年を迎えた同館で世界初公開される作品が、「果蔬図巻」。江戸時代の巨匠・伊藤若冲が晩年に描いた絹本着色(けんぽんちゃくしょく)の全長3mもの大作だ。錦市場の青物問屋に生まれた若冲にとって、身近だった野菜や果物約50種を瑞々しくユーモラスに描いている。当時の青果がどのようなものか、観察力と描写力にも注目したい。

また本作は、深い親交がありながら制作時期には若冲と関係が途絶えていたとされる梅荘顕常(大典禅師)が直筆で「神のごとき才」と絶賛している跋文(ばつぶん)※が寄せられている点も見逃せない。
※跋文 書物などの後に書いた後書きのこと。

福田美術館 学芸課長 岡田秀之さん
「ブドウの葉の先が丸まっているのは、いかにも若冲!形の面白さ、透明感のある色味、生命力が表現されているところにも注目です。」

スポット名福田美術館
展示名「京都の嵐山に舞い降りた奇跡!!伊藤若冲の激レアな巻物が世界初公開されるってマジ?!」展
開催期間10月12日(土)~2025年1月19日(日)※12月3・30・31日、1月1日は休み。
料金一般1,500円、高校生900円、小中生500円
時間10:00~17:00(入館は~16:30)
問い合わせ075-863-0606
アクセス阪急嵐山駅下車 約12分
住所京都市右京区嵯峨天龍寺芒ノ馬場町3-16【MAP
URLhttps://fukuda-art-museum.jp/

TOKKでは読者プレゼントとして、「福田美術館 招待券」を3名にプレゼント。 応募締切は2024年10月24日(木)。応募は下の「プレゼント応募」バナーをクリック。

【大阪・豊中】群鶏図・蓮池図ほか若冲晩年の名作を公開「西福寺」

仙人掌群鶏図(さぼてんぐんけいず)1789年 伊藤若冲 重要文化財

西福寺の襖六面に描かれた金地と闘鶏が華やかな作品。裏面にあった「紙本墨画蓮池図」は現在六幅の御軸として、また今年3年の修復を経て鑑賞ができる。
※取材時はレプリカを撮影。11月3日は、実物を虫干しにて公開予定。

豊中市にある西福寺に若冲の絵画が4点も所蔵されている理由は、1788年に遡る。京都の大火により、自宅を失った若冲は大阪の文化人に招かれ西福寺に1年ほど身を寄せた。その間描いたのが「仙人掌群鶏図」。鶏画家と呼ばれ、多くの鶏を描いた若冲の晩年の名作の一つとされる。主題の一つであるサボテンは当時珍しく、同寺の檀家で、大阪の薬種問屋だった吉野家が所有していたものを若冲が見て描いたのではと考えられている。

なお、本作を含めた若冲作品は年に一度、わずか1日だけしか公開されない。虫干しを目的とした公開であるため、当日は晴天になるよう待ちたい。

西福寺 住職 榎原清了さん
「晩年の特徴である鶏の雛が描かれていて、生涯独身であった若冲の家族観を知る上でも貴重な作品です。」

スポット名西福寺
行事名美術品の虫干し
日程11月3日(祝)※雨天中止。
時間10:00~17:00(入場は~16:30)
料金無料
問い合わせ06-6332-9669
アクセス阪急服部天神駅下車 約15分
住所豊中市小曽根1-6-38【MAP
備考住宅街にある寺のため、お静かにお願いします。

【神戸三宮】歴史の教科書で見たあの絵を年1回公開「神戸市立博物館」

聖フランシスコ・ザビエル像 17世紀前期 作者不明


重要文化財 聖フランシスコ・ザビエル像 神戸市立博物館蔵(池長孟コレクション)
「聖フランシスコ・ザビエル像」は、茨木市千提寺の隠れキリシタンの里で発見された。聖人となったザビエルだけを、正面から描いた日本製の珍しい作品。強い神の愛に、ザビエルの心臓が燃えている象徴的なシーンが描かれており、下部には万葉仮名が記されている。

神戸市出身で南蛮美術のコレクターでもある池長孟のコレクションを譲り受けたことで豊富な南蛮紅毛美術を所蔵する神戸市立博物館。注目は、教科書などで誰もが一度は目にした「聖フランシスコ・ザビエル像」。信仰に命を懸けた禁教時代を潜り抜け、大正期に発見されたカトリックの聖画で、その歴史的価値は計り知れない。

作品保存のためオリジナルは年に一度の展示となっており、今年は11月4日まで公開される。歴史の証拠でもある実物を間近で鑑賞してみて。
※期間外はレプリカ作品を展示。

神戸市立博物館 学芸課 係長 塚原 晃さん
「ザビエルは日本だけでなく、世界的に有名な聖人。ほかに類例のない図様で描かれる貴重な作品です。」

スポット名神戸市立博物館
展示名「聖フランシスコ・ザビエル像」
日程11月4日(休)まで
時間9:30~17:30(金・土曜は~20:00。2・3階展示室への入場は閉館の30分前まで)
休館日月曜休(祝日の場合は翌日休)
料金常設展一般300円、大学生150円、高校生以下無料
問い合わせ078-391-0035
アクセス阪急神戸三宮駅下車 約10分
住所神戸市中央区京町24【MAP
URLhttps://www.kobecitymuseum.jp/

【芦屋】外観は2階建てのような4階建て洋館の不思議「ヨドコウ迎賓館」

ヨドコウ迎賓館 1924年竣工 原設計フランク・ロイド・ライト

※実設計は遠藤 新、南 信。
近代建築の三大巨匠の一人・ライトの見学ができる日本唯一の住宅建築。六甲山地の緑と一体化した景観、キャンティレバー(片持ち梁)、流れるような空間構成で、ライトの有機的建築を表現した住宅とされる。
天井近くの小窓は開閉式で、ヨドコウ迎賓館の各部屋にあり、その数計120個。

灘五郷の一つ山邑酒造(現櫻正宗)の8代目当主が別邸として建てたヨドコウ迎賓館。設計者は20世紀を代表する米国の建築家フランク・ロイド・ライト。

丘陵の斜面を生かし、4つのフロアを階段状に配したため、どの断面も1〜2階の構造という独特の外観は、自然環境と融和した有機的建築を理想とした、ライトの作風を強く感じられる。

注目は3階にある和室。鴨居上の欄間や書院造りの床の間に、植物の葉がモチーフの飾り銅板や採光窓が大量にあるなど、和洋折衷の唯一無二な造りに。芦屋を気に入り、浮世絵が好きだったというライトの思想を至る所で見つけたい。

3階西側の廊下の大きな窓は、西日が差すとはめ込まれた飾り銅板の影が美しく浮かび上がる。ライトの“木漏れ日”を感じて。

ヨドコウ迎賓館 館長 岩井忠之さん
「2階応接室の、丸い照明に照らされる大谷石の幾何学的な彫刻の陰影にも注目ください。ゆっくり眺めていたくなる美しさです。」

スポット名ヨドコウ迎賓館
営業日水・土・日曜と祝日のみ開館
時間10:00~16:00(入館は~15:30)
料金一般500円、小中高生200円
問い合わせ0797-38-1720
アクセス阪急芦屋川駅下車 約10分
住所芦屋市山手町3-10【MAP
URLhttps://www.yodoko-geihinkan.jp/

【大阪・中津】2カ月間だけ開館する南蛮美術専門の美術館「南蛮文化館」

南蛮屏風 六曲一双 16〜17世紀初頭 狩野光信一門 重要文化財

※六曲一双 縦長の画面を6枚つないだ屏風が、2つで一組となっていることを指す。
右隻(写真上)は南蛮人との貿易の様子を、左隻(写真下)には異国の海を出港する南蛮船が描かれている。南蛮人の交流の様子を克明に描写しているところも見どころ。右隻(写真上)には信長に可愛がられた外国人男性・弥助と思われる人物が描かれている。

今年で開館56年になる、南蛮美術専門の私設美術館が阪急中津駅前にある。中津の地主であった北村芳郎が収集した南蛮美術作品を年二回公開する、知る人ぞ知る美術館だ。なかでも構図、風俗描写などが優れ、重要文化財にも指定されている「南蛮屏風」は必見。

国内に約70点あると言う南蛮屏風だが、本作は鮮やかな色合いで、宣教師など南蛮人の出で立ちや、献上物のクジャク、街の人との交流の様子を生き生きと描いており、時間を忘れてじっくりと見たくなる名作。文化財保存に努めた粋人の、至極のコレクションをじっくり鑑賞して欲しい。

黄金の十字架
島原・天草一揆の舞台になった原城から、1951年に発掘。金糸をより合わせて作られた十字架で、球状下部に聖木が納められていた。箱上部にはイエズス会の紋章がある。

南蛮文化館館長・学芸員 矢野孝子さん
カルソン(ズボン)などを身に付けたきらびやかな出で立ちの船長の装い、南蛮寺(教会の意)など詳細な描写にも注目してください。

スポット名南蛮文化館
秋季開館11月1~30日
※5月も1カ月間開館。展示内容は異なる。
時間10:00~16:00
休館日月曜休
料金一般800円、高大生600円、中学生以下無料(引率者要)
問い合わせ06-6451-9998
アクセス阪急中津駅下車すぐ
住所大阪市北区中津6-2-18【MAP
URLhttps://www.namban.jp/namban/

阪急沿線で見つけるアート

作品が見られるのは、美術館・博物館だけではない。誰でも気軽に鑑賞できる屋外の作品や、鑑賞を主目的としない施設にも名作がある。気軽にアートにふれることができるので、ぜひ訪れてみて。

【茨木市】茨木市文化・子育て複合施設 おにクル

「縦の道」
元茨木川緑地内に2023年11月オープンの伊東豊雄設計の文化施設。実用面からアート作品まで、様々な機能が融合し市の新たなランドマークになっている。

スポット名茨木市文化・子育て複合施設 おにクル
時間9:00~22:00 ※各施設により異なる。
休館日第2・第4月曜休(祝日の場合は翌平日休)
問い合わせ072-631-0296
アクセス阪急茨木市駅下車 約11分
住所茨木市駅前3-9-45【MAP
URLhttps://www.onikuru.jp/

【神戸・王子公園】ミュージアムロード

PEASE CRACKER  椿昇 2014

「PEASE CRACKER」
神戸市立王子動物園から兵庫県立美術館までの約1.2kmの道に、アート作品が多く設置。同作は、8×4mもの大きさで、サヤエンドウのような形をした作品。ベンチとしても使用できる。

スポット名ミュージアムロード
問い合わせ078-647-9092
アクセス阪急王子公園駅
場所神戸市灘区~中央区【MAP
URLhttps://www.city.kobe.lg.jp/c63604/kuyakusho/nadaku/shokai/miryoku/museum-road.html

【大阪・十三】淀壁

「ナイチンゲール」BAKIBAKI

「ナイチンゲール」
淀川エリアで、大阪万博に向けた地域活性化を目指す壁画制作プロジェクト「淀壁」。20カ所もの壁画があり、同作品は2021年医療従事者への敬意をテーマに制作。

スポット名淀壁
アクセス阪急十三駅
場所大阪市淀川区十三【MAP
URLyodokabe.net

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